創業350年を機に、妥協のない造りで生み出した最高級の日本酒だからこそ、最高の料理を合わせたい。そんな長谷川氏の思いを形にしたのが、世界のベストレストラン50の評議委員長でもあり、様々なフードイベントなどでも活躍する中村孝則氏が認める気鋭のシェフたち。3カ月ごとに変わるシェフたちが最高の「アテ」(酒の肴)をお膳に仕立て、ペアリングとして提供する。
6代目となる今回は、今年辻静雄食文化賞の専門技術者賞も受賞した、和歌山県のイタリアン「ヴィラ・アイーダ」のオーナーシェフ、小林寛司氏が担当し、自家農園の野菜を中心とした5種類のアテを生み出した。
最近よく聞く「ファーム・トゥー・テーブル」という言葉だが、小林氏は、農家の長男として生まれ、両親から受け継いだ畑を耕しながらレストランを営んで21年。130種類以上の野菜を育て、農業との関わりの深さが違う。より良い酒造りのために、米農家と何度も話し合い、土地の「らしさ」を表現する酒造りを行っているヤヱガキ酒造のコンセプトとも、ぴったり符合するチョイスだ。
さて、そのペアリングは。
「日本酒は水と旨味で構成された『米のジュース』。旨味のあるものとは基本的に合うのです」と長谷川氏。最近は日本料理以外でも、ハイエンドのガストロノミーの世界では、出汁を使うなどして食材のデリケートな味わいを活かす料理は多い。そんな料理に、この長谷川栄雅シリーズは特に合うのではないかという。
特徴的なのが、「栄雅特別純米」だ。磨きは5割、純米大吟醸と呼べるほどに磨きをかけ、純米造りで醸造した。「上質な酒といえば純米大吟醸が多いが、それだけではなく、食中酒には、米の旨味やふくよかさが欲しい」、そんな思いで造られている。
試飲してアテを作った小林氏は、「長谷川栄雅シリーズは、洗練された味わいが特徴」という。
まず合わせたのは、黒豆。砂糖と醤油で控えめな甘味に炊き上げてから、軽く塩を振りかけて仕上げた。上品な吟醸香のある「栄雅純米大吟醸」に合わせてある。
続いては、やや酸味のある「栄雅特別純米」に、焦がしたネギのパウダーに、フェンネルやカルダモンなどのスパイス、きび砂糖を混ぜた粉をまぶしたきゅうりのピクルスとドライトマトを。グラスのフチには自家製の梅酢塩がまぶされて、様々な酸味のレイヤーを表現する。「味を重ねるのが好きなのです」と小林氏。噛むほどに旨味の出るドライトマトで、咀嚼をすると、きゅうりに纏わせた複雑なスパイスが重層的な味わいを生み出す。