お米ライターが探る世界と日本のコメ事情

木桶仕込みの「にいだしぜんしゅ」。仁井田本家の商品のうち蔵付き酵母で木桶を使っているのは、自社栽培の自然米「亀の尾」を使った「田村 木桶仕込み」と、県内の契約農家が栽培した自然米「亀の尾」を使った「にいだしぜんしゅOK」の2種類。

日本酒の味の決め手となるのは酵母だが、酵母を添加せずに日本酒を作る方法がある。木桶を使って、その酒蔵に住み着いている酵母菌だけで醸す製法だ。

2017年からその製法を始めたのが福島県郡山市の酒蔵「仁井田本家」の18代目蔵元で杜氏の仁井田穏彦。「米のポテンシャルがそのまま酒に出るから」と、全量を乳酸無添加の生酛造り(蒸した米と麹と水だけで酵母を培養するという製法で、自然の乳酸菌の力でつくられた酒母)で、酵母を添加せず、農薬や肥料を使わずに育てた「自然米」と、天然の水だけで日本酒を醸している。

さらに今年は奈良県の吉野杉を使って小豆島の醤油蔵「ヤマロク醤油」で製作してもらった木桶を導入し、さらに「発酵の複雑味」を追求しているという。米のポテンシャルを引き出す、「木桶」の秘密について探った。

菌が生み出す複雑味


木桶を使うとどう味が変わるのか。仁井田はこう語る。

「木桶で仕込むと、複雑で多様な味わいが出る。良い意味でのいろいろなフレーバーやオフフレーバーが溶け込むことで、他では出せない奥行きが出て、オリジナルな味ができると感じています」

実際に、バニラのような甘い香りが奥深く広がる液体を口に含むと、甘味と、舌にぴりっとくる若干の苦味と、わずかな酸味と、米の味が感じられ、火入れしているとは思えないほどの“生”感を覚える。確かに複雑な味わいだが、後味はすっきりとしている。


木桶で発酵中の酒。

初めて蔵付き酵母の木桶で造った「しぜんしゅOK」は27年間日本酒造りに携わってきた仁井田にとっても、「今まで見たことがない発酵」でぼこぼこと泡が湧きだっていた。予測不可能な動きをするのも蔵付き酵母と木桶ならではだ。

仁井田は「現代の日本酒は全体的に純度が高くきれいで余計な味がしないという方向に向かっている」と話す。しかし、仁井田が目指すのは「単調ではない」日本酒だ。

「最初に米と酵母の香りがして、途中で米と麹の香りがして、長い余韻の中にいろいろな菌が生み出した複雑味があって…という、悪く言うと汚い、良く言うと多様性のあるお酒です」。そのためにも、精米歩合を高めに設定して、なるべく磨かずに米の持ち味を活かす方向性で酒を造っている。

文=柏木智帆

この著者の記事一覧へ

PICK UP

あなたにおすすめ