昨年、夫が京都の人から、「祝」という酒米(酒造好適米)の栽培比較試験を依頼された。しかし、西日本の平野部に広がる京都と違い、私たちが住んでいるのは会津地方の標高500メートル越えの寒冷地。夫は「出穂しないのでは」「登熟温度が足りないのでは」と不安視した。
ところが、収穫の季節を迎えると、「祝」はしっかりと私たちの住んでいる土地でも登熟していた。「こちらで、ここまで登熟するということは、逆に京都では高温障害が頻発するのではないか」と夫が推察する。
確かに、京都で収穫された同じ「祝」のおむすびを食べるとぼそぼそしていた。七分の搗(つ)きではあったが、ぼそぼその要因はそこではないように感じた。大粒で粉っぽいのは、酒米であるこの品種の特徴だが、それとは異なるネガティブな食味だ。「高温障害をくらっているのでは」と夫。明らかに“ヤケ米(発酵して茶色く変色した米)”になっていることがわかった。
京都府産「祝」の玄米
コシヒカリにも変化が
「祝」は、在来品種の「野条穂(のじょうほ)」から1933年に生まれた京都府のオリジナル品種だ。そのため、京都の日本酒においてこそ価値が生まれ、たとえ他県で最高品質の祝をつくったとしても、引き合いは弱い。つまり、京都府産祝と福島県産祝では、明らかに前者にブランド力がある。祝は京都でつくられるからこそ意味がある品種なのだ。
しかし、近年は温暖化によって、祝は京都の気候に合わなくなってきているのかもしれない。かつては栽培に適していた地域と品種の組み合わせが、気候変動によって変わってきているのだ。「◯◯産◯◯」というブランドネームだけが残り、品質が追いついていないのではないだろうか。
その仮説に確信を持ったのは、同じ酒米である「山田錦」にも、そのように感じたことがあるからだ。