ブランド米に気候変動の影響、イメージから遠ざかる品質

福島県で栽培した京都府オリジナル品種の「祝」


酒造業界をけん引してきた山田錦は

一方で、酒米の場合は、いわゆる「酒造に良い」という品質が求められる。そのため、米の味に関わる品質よりも、心白の出方や粒の大きさ、割れづらさなどが重要とされる。酵母が味わいに大きく影響するため、酒米の味は食用米のように顕著には出ない。「削らないと雑味が出る」とも言われているのは、吟醸並以上にまで削らないと雑味が出る米質だからとも考えられる。

このコラムの「酒蔵は勉強不足? 定説に挑戦する杜氏たちが日本酒の未来を照らす」でも書いたように、最近はその傾向に待ったをかける酒蔵もあらわれたが、全体的に酒米に求められるのはアルコール取得量の多さや扱いやすさ、ブランド力などだ。

酒米は心白が出現して粒が大きければ等級が高くなるため、品質低下に食用米ほど気づきづらい。心白を出すために、わざと登熟期を暑い時期にぶつける場合すらある。等級に関わる「心白が出にくくなった」「小粒しか取れなくなった」という変化があれば、栽培を見直すようになるかもしれないが、果たして心白ばかりを見ていてよいのだろうか。一等米ならばよいのだろうか。

ある古老の杜氏は「山田錦は酒を造りやすいわけではないが、米と造り手が噛み合ったときに圧倒的に良い酒になる」と評している。つまり、良い設備や造り手の技術も必要とするが、うまくいけば最高の酒を生み出すことができる品種で、「一度それを経験すると忘れられなくなり、困難でもエベレストに登りたいという登山家と同じだ」ということだ。

「山田錦は酒造業界をけん引してきたいちばんの功績者」という彼の言葉には、山田錦の絶大なポテンシャルへの敬意も感じられた。

ブランドを培ったころの兵庫県産の山田錦はどんな味わいの米だったのだろうか。当時の兵庫県産山田錦と、現代の兵庫県産山田錦。もしもまったく同じ造りで日本酒にしたら、水と酵母の影響が大きいとは言え、やはりその味わいは違うのだろう。

「地域のブランド」と「地域の気候」と「米質」が従来のようには噛み合わなくなっていることは否めない。栽培管理の見直しだけでは限界も来るだろう。ブランドイメージだけで作付けを決めるのではなく、現代の気候に合った適地適作が必要になってきているのだ。


台風で倒された稲穂。気候変動の影響で台風も増加傾向だ。

連載:お米ライターが探る世界と日本のコメ事情
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文=柏木智帆

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