しかし、Winner Takes Allの時代には、「Winner」がその技術的優位性と機動力によって、異分野へのディスラプティブ(破壊的)な変化を起こすことが可能です。
このような時代に重要なのは、「どうやるか(How)」よりも、「なぜ(why)を問うこと」であると言われています。
「なぜ(why)を問う」とは、その企業が何を信じて、何のために存在しているのか、その企業が提供する商品やサービスが人々の生活をいかに豊かにしているのか、つまり、企業の目的や存在意義を問うことによって、その世界観を修練していくことだと言えるでしょう。
「なぜ(why)を問うこと」の重要性には、多くの人が賛同するはずです。それは、今日の社会が、これまで経験したことのないスピードで変容し、人間や企業が常に新たな環境に適応することを求められる状況になっているからです。
「なぜ(why)を問うこと」は、定量的であると同時に定性的な作業です。数字から見える企業の現状と、あらゆるステークホルダーから見える企業のイメージを客観的に整理し、企業が抱える「問題を定義する」ことによって、企業の「なぜ(why)」を導き出すことができます。
そして、導き出された「なぜ(why)」が、企業の社員やその他のステークホルダーの主観に響き、共感の輪が生まれていくのです。
私は、この一連の「なぜ(why)を問う」プロセスの中でも、特に「問題を定義する」ことにその核心があると考えています。それは、私が経験したAI開発のなかで学んだものです。
「問題を定義する」ことの重要性
近年のAIブームは「第3世代AI」と呼ばれています。私は1990年代初頭に、手書き日本語文字認識のアルゴリズム開発をしていたので、いわゆる第2世代AIに関わっていました。当時はまだルールベース(人が決めたルールに従って処理する)で文字認識辞書を作成しており、今のような深層学習の手法が産み出される前でした。
第2世代と第3世代の間には、20年近く「冬の時代」があり、当時はAIの研究や開発のための人材や予算の確保が容易ではありませんでした。その結果、自社内でAI人材を育成できた企業は稀であり、経営陣に至っては、AIに関する経験やリテラシーを有しているメンバーがいる企業は皆無と言っていいほどになってしまいました。