DXを進めようとしたとき、大企業の多くは競合である大企業のやり方を参考にしがちです。しかし、先進的なアイデアで大きな成果を出すDXを得意とするのは、実はスタートアップ。会社の規模は小さくても、学ぶべきことは多いでしょう。
DXについての書籍を自ら著した元 P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)のバイスプレジデントで、現在は経営コンサルタントのTony Saldanha氏は、次のように語っています。
「P&Gのグローバルビジネスサービスは、同様のサービスを展開していた競合他社を抑えて業界最高クラスと評されていました。しかし、当時社内の人間は、現状のサービスでは不十分だと思っていたのです。
なぜなら、個別の市場で自社より大きなシェアを占めていたのは、大企業ではなくスタートアップであり、彼らは私たちの半分のコストで10倍のアジリティ(俊敏さ)という優位性を示していたからです。つまりわれわれは、スタートアップという重要な競合と張り合える社内業務の新たなカタチを、いかに生み出すかという問題に直面したわけです」
かつてはスタートアップというと、先端技術やIT分野のイメージがありましたが、いまやその影響はさまざまな業界に及び、P&Gが得意とするような化粧品や家庭用製品の分野でも活躍しています。
P&Gの多くのプロダクトがスタートアップ包囲網に攻められている様子は、CB Insightsの次のチャート(2016年)でもよくわかります。
CB Insights「Disrupting Procter & Gamble: Private Companies Unbundling P&G And The Consumer Packaged Goods Industry」より
P&Gを脅かしたスタートアップ
今回注目したいのは、(チャートの左上にある)髭剃り販売のスタートアップ企業ダラー・シェイブ・クラブ(Dollar Shave Club)です。
ダラー・シェイブ・クラブは、2011年に創業。その後たった5年で、急成長を遂げ、2016年ユニリーバにユニコーンとして10億ドルでエグジットしました。
際立った技術もないスタートアップが、P&Gが擁する髭剃りの王者ジレット(Gillette)を脅かす存在になることができたきっかけは、1本のバズ動画でした。
2012年にYouTube動画をバズらせたのは、このダラー・シェイプ・クラブのCEO・Michael Dubin氏です。彼は自ら出演し、現状の髭剃りがユーザーにとってどれだけ期待外れか、そして自社の製品がいかにその問題を解消してハッピーな髭剃りライフを実現できるかを、動画で訴えました。