鍵は分散型の「巡る経済」
コロナ禍の自粛中に、生活者が感じた生活や消費に対する考え方の変化が、循環型経済へのシフトを世界的に加速させるのではないか、という仮説を私は考えている。私たちは、コロナ禍で移動や人とのコミュニケーションが制限され、生活様式を振り返ることになった。日々の、過度なつながり、過度な労働、過度な経済活動、過度な消費といった、「過剰さ」に気づき、「自分にとって本当に必要なものは何か」という自分発の生活価値への意識が高まった。
そのなかで、例えば、マスクの自作、近所付き合いを始める、家庭菜園を行う、料理を自分で作る、自宅をDIYするなど、生活の中で「自分で生み出す」「自分で作る」という活動が価値を持つようになったように思う。「自ら生み出し、作り出し、そのプロセスで自分の生活を彩り、余剰をおすそ分けする」という、自分からはじまる「小さく巡る生活」への可能性を感じる人が増えたのではないか。都市から田舎暮らしを選択肢に入れる人が増えたのも、自然な流れだ。
自治体が強力に循環経済を推進してきたオランダ・アムステルダム市は、生活者の意識変容が市場拡大につながるサイクルが起こっている。
例えば、環境への気遣いとスタイルを両立したホテル「ConsciousHotel」のように、ホテル内はすべてリサイクル・中古製品で、電力は風力発電で賄われる環境を意識したホテルづくり。また、リビングラボ「De Ceuvel」のように、オフィス兼住居用にリノベーションされた「廃船(ハウスボート)群」に、循環型の暮らしや社会を志向するスタートアップやアーティストが入居する例でも、コミュニティ内で可能な限り資源とエネルギーの循環を実現し、週末には大勢の人たちが集う場にもなり、街に溶け込むスタイルを通じて文化を広げ、生活者の自主的選択を生み出すしている。
循環型社会へのシフトの鍵である「生活者の意識変容」は、エシカル消費に加え、「消費と生産を分けることをやめる」「生活者が消費と生産をバランスよく持つ」、つまり自らつくることに参画することによって完成すると考えている。