菅首相は国際社会で「好印象」を得られるか?

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菅義偉首相が9月の就任以降、トランプ米大統領やプーチン・ロシア大統領、習近平中国国家主席、文在寅韓国大統領らとの電話会談を一通り終えた。外交や安全保障分野に強い関心を示してきたことがなく、一部に不安視する声もあったが、評価は悪くなかった。

無難な滑り出しをみせた菅外交だが、菅首相は果たして国際社会のなかで、尊敬され、愛されるリーダーになれるだろうか。在京の外交筋の一人は、「電話会談だけで評価するのは、気が早すぎるよ」と言った。「昔、言語学者の本を読んだが、相手に自分の考えを伝えるうえで、言葉が果たす役割は20%くらいしかないんだそうだ。20%はオーバーだと思うが、言葉だけ取り繕っても十分とは言えないね」と語る。電話会談だけでその実力を推し量るのは難しいらしい。

各国の現役や元外交官らによれば、国際社会で人気があるリーダーの条件とは、おおむね、「短い言葉で主張や結論を伝えられる」、「ジョークが言えるなど、相手をリラックスさせられる」、「ウソをつかず、相手から信頼される」といったものだという。

各国にはこうした指導者像をつくるためのアドバイザーもいる。以前聞いた話だが、まずあらかじめ自分が主張したい問題について頭を整理しておく。相手が覚えやすい印象的なキーワードや具体的な数値を覚えておく。もちろん、言いたいことにこだわり過ぎて、社交の雰囲気をぶちこわしてはいけない。あらかじめ、自分が触れたい問題に誘導するためのキーになる言葉を複数準備しておく。社交の場でよく出る文化やスポーツの話と共通性のあるキーワードを用意しておけばいい。ざっとこんな感じだ。

こんな苦労をしないで済むのは米国くらいだろう。トランプ大統領の場合は、超大国のリーダーだから、自分勝手に話を進めたからといって、嫌われこそすれ、国際社会から退場を命じられることはない。

そして、今の国際社会で人気の指導者といえば、ドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、カナダのトルドー首相あたりで、社交の席ではすぐ周りに人の輪ができるという。在京外交官の1人は「安倍晋三前首相も悪くなかった。明るいイメージがあったし、外交が好きで場慣れしていた」と語る。

この外交官によれば、日本の歴代首相で飛び抜けた印象があるのが小泉純一郎元首相だという。「態度がはっきりしていて、わかりやすかった」と語る。小泉首相は2006年6月、ジョージ.W.ブッシュ大統領と共に故エルビス・プレスリーの自宅があるテネシー州メンフィスを訪問。プレスリーのようにギターを弾くまねをして、周囲を喜ばせた。2002年9月、小泉首相は北朝鮮の金正日総書記と首脳会談を行った。米国は、日本が8月に日朝首脳会談について事前通報する前から、日朝の秘密接触の事実を知っていたが、ブッシュ大統領は日本をとがめ立てるような指示を一切出さなかった。
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文=牧野愛博

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