NYの空洞化は本当か? 郊外に人々を分散させる「遠心力」の正体

文化、美術、音楽がバーチャルで味わえるとなれば、都市に出かける理由はなくなるだろう(Noam Galai/Getty Images)

コロナ禍による世界の死者数が100万人、アメリカだけでも20万人を超えた。カリフォルニア州やテキサス州では、いまだに感染は拡大の一途をたどっている。

ようやく収束するかに見えたニューヨーク市でも、9月21日に始まる予定だった学校の対面授業が再び延期された。学童を持つ親からも、子供を抱えての在宅勤務によるストレスの声が聞こえてきている。

市内のレストランも、年内屋外での営業は継続して許可されているが、店舗の閉鎖や廃業も続き、既存店でも売り上げは従来の1割から2割程度で青息吐息だ。

また、ニューヨーク州では、6月以来の1日の感染者数が1000人を超えたが、そのうち20%はニューヨーク市のブルックリン区での感染増加だった。どうやら、秋からのコロナ禍第2波の予兆が漂い始めている。

都市に出かけなくてもいい時代に


このいまだ終わりの見えないコロナ禍のなかで、これまでにも増して大きな注目を集めているのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。

DXというと、クラウド化やデジタル化というような技術面の進化だけを思い浮かべるかもしれないが、人間の社会的行動の観点から見ると、DXは、都市への求心力とは真逆の、都市から人が離散する力として、つまり都市からの「遠心力」として働く。

都市には仕事があり、情報を交換できる相手も近くに居て、これまでは仕事を進めるためには関連産業の集積地に住むことが重要であり、それなりの求心力も働いていた。しかし、そのなかにあって、Eメール、スマートフォン、インターネットなどによるコミュニケーションや情報のやり取りは着実に進化していた。

そして、今回のコロナ禍。それらのツールを駆使することで、人々はオフィスのある都市から離れることを経験した。会議、ミーティング、セミナーなどをリモートで行うということが常態化し、テレワークによる職住一体の環境への慣れから、職場に戻りたがらない傾向も現れ始めている。

コロナ後に向かっては世界が変わるとよく言われているが、このことを改めて俯瞰して眺めると、「人と会って話す」という行為が減少し、ネットなどを経由してデジタルの世界でコミュニケーションを行うことに慣れ始めたという景色が鮮明に見えてくる。

通信環境が遅れ気味のアメリカでも、光ファイバーレベルの容量とスピードが整ってきていて、ZoomやGoogle Meet、Microsoft Teamsなどのネットワーク技術も安定して使用できる環境が整ってきている。それらとも相まって、デジタルの世界でのミーティングや学校教育、飲み会などの行動も馴染んできている。
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文=高橋愛一郎

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