そこで、「垣根を越える力」と題したこのコラムでは、そもそもDXをどうとらえればいいのか、その課題や実践のヒントなどについて、筆者の経験と友人のソートリーダー(thought leader/業界の思想的先駆者)からの知見をもとに、書いていきたいと思います。
DXというと、AIなどテクノロジー導入や効率化をイメージする人は多いと思いますが、事業や会社のトランスフォーメーションが先決であり、ITは大事ですが、手段でしかありません。今回は、これを理解するための2つのわかりやすい例を紹介しましょう。
「ワオ! と驚くサービス」のザッポス
米国では、ザッポス(Zappos)がDXの代表例としてしばしばあげられます。1999年創業のザッポスは、2009年アマゾンに1000億円超で買収された米国トップのオンライン靴小売業であり、アパレルなどファッションも取り扱い、いまも成長を続けています。
「顧客にワオ! と言ってもらうサービス」の提供を目指して、例えば顧客からの電話には何時間でも付き合うという、一見非効率ですが、人間的なつながりを重視するザッポスは、ユーザーとのタッチポイントに企業努力をフォーカスしています。
自分たちの会社の熱いファンがその体験をソーシャルメディアで発信し、それを見た人が今度は新たな顧客となる、つまり顧客が顧客を生んでいく。そして、ファンになればなるほど顧客のLTV(生涯価値)は高まります。
このようにしてザッポスは、他の企業とは異なる見事なビジネスモデルで顧客を開拓し、発展してきました(筆者は書籍『ザッポス伝説』『ザッポス伝説2.0』を監訳しています)。
こう書くと、「DXとしてはどうなの?」と思う人もいるかもしれませんが、ザッポスは、そもそもオンラインに向かないと言われた靴小売を成功させたイノベーターであり、ソーシャルメディア活用の成功企業です。
コールセンターのパフォーマンスや顧客満足度などのデータをリアルタイムでフィードバックする業務プロセスを確立し、「ホラクラシー」という社内の組織のあり様を見える化した自律型組織では、世界的なパイオニアです。