加えて、従来、実際に訪れることが前提となっていた美術館の展示やコンサートなども、バーチャルでツアーやライブを提供し、「人が動かなくてもいい」状態が現出し始めている。
これまで都市に行かないと味わえなかった文化、美術、音楽がデジタル化し、バーチャルで味わえるとなれば、都市に出かける理由はなくなってしまう。有名投資家のウォーレン・バフェットも、その点を見通して、人の移動が元のようには戻らないだろうと保有していた航空株をすべて売却した。
通信も5G世代に移行しつつあるが、通信速度と容量が4Gの20倍の20Gbpsになり、同時に接続できる機器の数も100万と10倍になり、解像度もHDの4倍になる4Kだけでなく、更に16倍の8Kの画像通信も可能となってくる。
自分の機器だけでなく、他者との機器との共有も、拡張した画面のように可能になる。世の中のネットに繋がっているすべての機器がシームレスになるのだ。
8Kになると、肉眼では発見できないような微小ながん細胞も早期発見ができるくらいの精度となり、遠隔での治療や診察も、鮮明な画像で、通信の遅延なく、顔色も見ながら、隣に居るかのように行えるようになる。となると、やはり「人が動かなくても済む」ようになる。
都市に人が戻らなくとも、社会活動が成立する構造に変わっていくということである。都市への求心力であったさまざまな観光資産や、それらを支えるホテル、交通などの産業、人が会うことを前提にした飲食産業などから、潮が引くように人が去っていき、戻らない。戻らないというより、離れたままでの新たな社会構造になってきているのだ。
NYの空洞化はリーマンショックで加速
7月に建設業などから経済活動が再開されたニューヨーク市で、ある建設会社の知人と話した時に「細かいところまで鮮明に見られるくらいに解像度も上がったし、現場の人間にカメラを付けさせて、これからは家に居て、リモートで各現場に指示しようかな。これで『リモート親方』になれる」と面白いことを言っていた。
誰でもリモートでできるわけでもなく、過去の豊富な経験からその人間に指示ができる能力が備わっていなくてはいけないのだが、9月になって再び彼に会うと、税率が低いペンシルバニア州に家を買って移住し、マンハッタンには火曜日から金曜日の夕方まで居るが、それ以外はリモートで指示をすることにしたと、そそくさと実行に移したという。これにはさすがに驚いた。ここでも都市から離れるという「遠心力」が働いているのだ。
かつては、他州や他の都市へ行くと、宿泊するホテルのベッド脇の引き出しには必ず電話帳が置いてあった。電話帳を見ながら、その地域の主な産業や特色をページの厚みでよくはかっていたものだ。電話帳は、言ってみれば、都市機能のインデックスでもあったわけだ。とはいえ、都市の空洞化は、21世紀を迎えたころから徐々に始まっていた。