農業、酪農、それぞれの試み
北海道の食および食文化の発展に寄与した個人または団体を顕彰する「小田豊四郎賞」というのをご存じだろうか。
小田豊四郎さんは、帯広市に本社を置く六花亭製菓の創業者であり、「その町の文化の程度はその町のお菓子でわかる」と、七十余年にわたりお菓子づくりに邁進した人。現役を退くにあたり、北海道の食文化の発展を願い寄与することを目的に小田豊四郎記念基金を2003年に設立した。先の賞は記念基金の活動の一貫で、ほかに食に関する約8,000冊の書籍を一般公開したり、十勝の子どもたちの詩を集めた詩誌『サイロ』を刊行したり、「忘れられない北のあの味」というテーマで全国からエッセイを公募したりしている。
さてその「小田豊四郎賞」だが、選考委員は1名のみで、毎年変更される。僕は、昨年(2019年) の委員だった雑誌『dancyu』編集長・植野広生(こうせい)さんからバトンを受け取るかたちで、今年の委員に任命された。とはいえ、北海道の生産者で知っている人はそんなにいない。どのように候補者を見つけようかと思案していた矢先、1月初旬、僕がオーナーをしている京都「下鴨茶寮」に一通の手紙が届いた。
手紙の主は、北海道北広島市で農業を営む「竹内農園」の竹内巧(たくみ)さん。大学卒業後にオートバイ好きが高じてヤマハに就職。インドにも駐在したが、自分も含め本州に就職する若者が多いこと、知人に「北海道って栄えてないよな」と言われたこともあり、会社を辞め北海道に戻って、2014年から農業を始めた。
しかも竹内さんはただ野菜をつくるだけではなく、市内の2つの福祉事業所から精神・知的障がい者の方たちを継続的に受け入れて農作業に従事してもらっているという。「農福連携」というテーマで全国から視察や取材なども数多くあるそうだ。手紙の主旨は、障がいの比較的重い人たちに栽培してもらっている「花豆」を、下鴨茶寮でおいしく加工・販売していただけないだろうか、という依頼だった。それで僕は早速竹内農園を訪れ、詳しい話を聞いた。