実はもうひとり候補者がいた。函館の和牛牧場「おぐにビーフ」の小国美仁(おぐによしひと)さんだ。
北海道への移住前はアメリカの牧場でファームステイをしていたが、日本の酪農とはまったく違ってカウボーイの男たちはみな誇り高く、「日本に帰ったら当然カウボーイになるよな?」と言われたそうだ。カウボーイこそならなかったが、小国さんは北海道で牛を育てるという目標を立てた。なぜなら北海道では老いた乳牛を屠殺して食べるので、乳臭くておいしくない。それで道民はみんな「牛はまずい」と思っているのだとか。
その思い込みを変えるべく、小国さんは奮闘。まずは5頭の牛をそれぞれ違う餌で育て、味を食べ比べるところから始めた。いまでは百数十頭まで増やし、レストランに卸すほか、ハンバーグやソーセージなどの加工品を自社販売している。
僕は2社を訪れ、素晴らしい取り組みに感動しつつも、従来の企画魂がもたげて、「こうしたらどうか?」という案を思いつくままに言ってしまった。でも、それもひとつの“応援”のかたちだと思う。
かくして小田豊四郎賞の発表は5月17日に行われ、「おぐにビーフ」がその栄冠に輝いた。
できることから始めよう
小田豊四郎賞のために北海道へ行ったのは半年も前の話。新型コロナウイルスの件がこれほど深刻な状況をもたらすとは思ってもみなかった。あらゆる業界が危機的状況に立たされているが、飲食業界は特に深刻だ。さまざまな方法で生き残りをかけて挑戦している人たちを心から応援したい。
こういうときは、言葉も大切だが、それ以上にまずは行動だ。銭湯活動家の湊さんがドリンクをプレゼントしたような、自分にできる小さな行動をまずひとつ始めてみよう。飲食店や生産者への最大のエールは、やはり購入するという行為。自分の場合は、これまで贔屓にしてきた料理店のテイクアウトを積極的に利用して、「おうち会食気分」を楽しんでいる。
常々、僕は「お金は拍手である」と言い続けてきた。皆さん、いまこそ拍手となる無駄遣いをしましょう!