「ユーザーの勝手な工夫」は偶然の産物か
こうした山崎実業で起きたような「ユーザーの勝手な工夫」により商品が拡散されていく現象は、SNSの普及により消費者一人ひとりが拡散力、情報収集力を持つようになったことで生じるようになった。
それまで消費者は、テレビのCMや広告で見る企業側からの一方的な情報や、実際に店舗に行き、目で見て確かめることなどでしか商品を選ぶことができなかった。
たくさんの消費者の目を通して「商品」を見ることができるようになった今、利害関係や損得感情が発生してしまう「生産者から発せられる情報」よりも、消費者目線でかつ多くの人が話題にしている情報の方が、信憑性や信頼は増すだろう。
山崎実業で起きた現象は、このような人間の心理やバズマーケティングの手法が上手く噛み合って成功した事例だといえる。
しかし重要なのは、「こうした事例はただの偶然の産物で、どんな商品でも運が良ければ起こりうる」というわけでは必ずしもないということだ。
実は同社の商品の場合、「使っているうちにふとした瞬間思いつく新しいアイデア」が生まれやすいのだ。
ユーザー1人ひとりにカスタマイズした商品をデザインすることはメーカーにはなかなか難しい。代わりに、ユーザーが自身のアイデアで使ってくれれば利便性は高くなり、満足感につながる。また「自分で使い道を思いついた」という爽快感もある。こうした要因が、もともとの商品への親しみや共感につながっていくのだろう。そして、それこそがユーザーの「山崎実業」というブランドへのエンゲージメントを高めているのではないか。
「自ら新しい価値を生み出す」ことの価値
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ではそもそもなぜ人々は、在る商品を本来の用途で使用するだけでは満足せず、そこからさらに新しいモノを生み出そうとしているのか。
インターネットの普及により、あらゆる情報や娯楽が無料で手に入るようになってから久しい。そんな中、手軽に次々と手に入る新しい情報や娯楽への飽くなき欲求のとりことなり、「ただの消費者」として生きていくことしかできなくなる人が増えていくと懸念されてきた。
しかし、山崎実業の例を見ると、「自分で何か新しいものを生み出す」という行為への欲求や、そうした行為に価値を見出す人も増えてきているように見える。
自ら創造せずとも十分な生活ができる現代において、多くの企業は、山崎実業が生み出す商品のように、「消費しながら創造できる」ツールによって消費者の新たな欲求を満たしていくことが求められるのかもしれない。
(サムネイル:Amazon Japan)