ジョナ・ヒルが「mid90s ミッドナインティーズ」で描いた反抗期の美しき結末

『mid90s ミッドナインティーズ』(C)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.(配給:トランスフォーマー)

心が子どもから大人になるとき、自分の身の周りに対して、どうしても我慢ならなくなる時期がある。対象は親や兄姉だったり、学校や近隣の社会だったりするが、それは一般的に「反抗期」と呼ばれている。

思春期特有の感情に覚えのある人も多いと思うが、身近なものに対して芽生えた拒否や抵抗の気持ちは、心を自然と自分から遠いものへと向かわせ、結果として人生最初の転機となる場合も多い。

個人差はあるが、それは13歳から14歳の中学2年生頃を中心に起こることが多いらしい。映画「mid90s ミッドナインティーズ」の主人公スティーヴィーも13歳。人より小柄な彼にとって、当面の反抗の対象は、日々身体の鍛錬を怠らない兄のイアンだった。

スケートボードが結びつける5人の仲間


「mid90s ミッドナインティーズ」は、思春期にさしかかった少年が、大人へのステップを踏み出そうとする試行錯誤の日々を描いた成長物語だ。

主人公のスティヴィーは、力では敵わない兄に対して、面と向かって反抗的な態度に出るものの、彼が不在のときには、「入るな」と厳命されている部屋に入り、兄の聴いている音楽やTシャツやスニーカーなどをチェックしていたりする。スティーヴィーにとって、そこは憧れの世界でもあるのだ。

スティーヴィーの反抗は、誕生日に兄がまだ持っていないCDをプレゼントすることで果たされる。スティーヴィーは、兄の部屋にあったものを全てリストアップし、そこにないものをプレゼントとして用意したのだ。

ここはつい流して観てしまう場面なのだが、自分としては心に残った。以降も、このように繊細なエピソードがさりげなく次から次へと語られていくのが、この作品の心憎いところだ。

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スティーヴィーの家族は、兄のイアンと、18歳ですでに彼に授乳していたという母親ダブニーの3人。どうやら父親はいないようだ。母親は、自分が付き合っている相手のこともあけすけに話すが、兄もスティーヴィーも、それを歓迎してはいない。母親に対しても、スティーヴィーはうっすらと反発を抱いている。

タイトルにもなっているが、この作品の舞台は、1990年代半ばのロサンゼルス。13歳のスティーヴィーに訪れた反抗期は、この街のスケートボードショップにたむろする不良っぽい4人の年上の少年たちと出会ったことで、意外な方向へと向かっていく。

プロのスケートボーダーを目指すリーダー格のアフリカ系アメリカ人のレイ。彼に匹敵するほどの技量を持つが、毎日楽しく過ごせればいいと考えているファックシット。将来は映画を撮りたいと、いつもムービーカメラを離さないフォースグレード(実は彼が最後に感動的な場面を演出する)。それに、スティーヴィーが仲間になるきっかけになった歳の近いルーベン。

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この4人を結びつけているのは、もちろんスケートボード。野卑な会話で盛り上がり、自由奔放に生きる彼らは、スティーヴィーにとってはクールで眩しい存在に映っている。そして彼は、母親の金を盗んで新しく購入したスケートボードで練習を重ねて、少しでも彼らに近づこうとするのだった。

特に印象深い場面がある。それはスティーヴィーも交えた5人が、車の往き来する道路の真ん中をスケートボードに乗って進んでいくシーンだ。先頭で駆け抜けていくレイとファックシット、その後ろにカメラを持ったフォースグレード。それからずいいぶん遅れてルーベンとスティーヴィーがゆっくり追いかけていく。

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文=稲垣伸寿

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