ジョナ・ヒルが「mid90s ミッドナインティーズ」で描いた反抗期の美しき結末


「A24」スタジオも認める監督の才


監督と脚本は、「マネーボール」(2011年)や「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた人気俳優ジョナ・ヒル。今回が初めての監督作品で、彼の自伝的色彩が濃いのだが、とにかくその脚本の緻密さには感心する。

「脚本を焦って書いて、急いで撮る人たちをたくさん見てきたが、ぼくは脚本を3年にわたって書いてきた。この作品について観客のみなさんがどう思うかわからないが、ひとつ確かなことは、時間をかけて考え抜いたということだ」

ヒル監督はこう語るが、「mid90s ミッドナインティーズ」は、脚本だけでなく本編も実に丁寧に手をかけてつくられており、完成までには4年もの月日を要している。

出演者のうち、レイとファックシットを演じたのは、プロのスケートボーダーで、この作品のためにヒル監督が見出し、見事な演技をさせている。またスティーヴィー役のサニー・スリッチは、ヨルゴス・ランティモス監督の「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017年)に出演していた子役俳優だが、プロのスケートボーダーでもある。

プロでもある彼らが演じるスケートボードのシーンはこの作品の売りでもあるはずだが、ヒル監督は敢えてそのような作品にはしたくなかったという。アクションやスペクタクルが見どころの作品ではなく、あくまでもスケートボードをきっかけに成長していく少年たちの姿を描きたかったのだという。

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(C)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

今回、ヒル監督と組んだのは、クオリティの高い作品を次々と送り出している独立系の映画スタジオ「A24」だ。過去には、「ルーム」(2015年)や「エクス・マキナ」(2015年)を配給し、製作にも名を連ねた「ムーンライト」(2016年)ではアカデミー賞で作品賞を受賞。最近ではグレタ・ガーウィグ監督の「レディ・バード」(2017年)やアリ・アスター監督の問題作「ミッドサマー」(2019年)も世に送り出している。

もちろんA24は、今回「mid90s ミッドナインティーズ」の製作にも加わっており、これが俳優ジョナ・ヒルにとって初めての監督作品でもあるにもかかわらず、彼の映画監督としての才能を全面的にバックアップしている。

青春映画の常套として、ひたすら甘くノスタルジックに描く手法もあるが、この「mid90s ミッドナインティーズ」という作品にそれはない。ストリート・ファイターやマイケル・ジョーダンなど90年代のアイコンも多数登場するが、それらが懐かしく強調されることはなく、あくまでリアルな生活の一部として、さりげなく挿入されている。

ヒル監督の目線は、その点は確固として揺るぎない。反抗期にある主人公(それはかつて同じような境遇にあった監督自身の姿でもあるのだが)を、熟慮に熟慮を重ねた脚本で磨き上げ、あえて16ミリカメラの映像の荒削りな質感に固定している。そこにはひたすら思春期のリアルを描き出そうとするヒル監督の強い意志を感じる。

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(C)2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

その揺るぎないスタンスは、最後にある事件が起き、それをきっかけに登場人物たちがひとつの方向へと収束していく場面を、ことさら印象深いものとしている。その物語の収斂の仕方には、思わず溜飲を下げた。見事というほかはない。

反抗期というものには、一律に負のイメージがつきまとう。しかし、それはまた、思春期における自己のアイデンティティの確立には欠かせないものでもある。反抗期を経ることで、ひとりの人間としての自立が可能になる。

「mid90s ミッドナインティーズ」は、13歳の少年が自分の場所を得るまでのリアルな物語。最後、そこに広がる景色は、ひときわ美しく見える。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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