他社においても、コロナ禍で出張が減ったことを契機に、今後は部署や拠点ごとのカーボンフットプリント(CO2排出量の見える化)をしていくことになったという例もある。また、次代を担うZ世代は、サステイナビリティや社会的意義など、経済的指標とは必ずしも直結しない価値観を重視する傾向にあるという。
今後はこのような視点が企業としてのあり方に組み込まれているかどうかも、ビジネスの美意識の一部となっていくのだろう。
危機が収まったら?
本稿では、私やIDEOが目の当たりにしている変化の兆しの例を挙げてきた。
「危機後は前のような状況に戻って、結局あまり変わらないだろう」という意見もある。しかし、たとえ元の生活に戻ったとしても、この数カ月に「あり得る姿」の片鱗を目の当たりにしてきた人々は、それを本当に忘れ去ってしまうだろうか。この体験から得た「あるべき姿」へのインプット自体は不可逆であると考える。
すぐにではなくても、確実にこれからの時代に向けてアップデートされていくだろう。今後クリエイティビティやビジネスのaesthetics(美意識)が重要な競争力の源泉となっていくなか、私達はどのような「あるべき姿」を描くべきなのだろうか。いつの時代もそうだが、危機がおさまる以前からこの意識を持つとともに考察を深めていきたい。