このタイミングで組織として大切にすべきナラティブを根本的に見直すことも必要だ。その結果、自分たちの組織の「あるべき姿」と真っ向から向き合うことも求められている。
「多様性」は競争力になる
例えば、いま世界中でDE&I(Diversity, Equity, and Inclusion)へ向けた組織変革が重要視されている。今後、組織にとって多様性、平等性、そして包含性の土壌がしっかりとあることは、明確な競争力の指標になる。そしてこれは、そのDE&Iが組織で担保されるシステムが具体的に構築されているかというレベルで求められている。
近年でも、ゴールドマン・サックスが上場支援条件として取締役の多様性を求めたことが物議を醸した。アプローチ自体の最適解はまだ模索されている段階だが、確実にこのような方向に向かっているといえる。
危惧するのは、日本においてこうした議論が足りていない点だ。
日本にも多くのグローバル企業が存在するが、海外の各拠点や、社員のバックグラウンドによっても、感じ方は違うはずだ。この「感じ方の違い」に、経営層は耳を傾けているだろうか。
男女やジェンダーの平等性といったところのナラティブは少しずつ顕在化してきたように感じるが、不十分だ。組織の中にどんな多様性が存在するのか(目に見えるものに限らず)を洗い出したうえで、その地域とコミュニティにおける人々の想いに共感しながら、インクルージョンのあり方を議論していく必要がある。
今後は、国内においても国籍、文化、宗教、価値観が異なる多様なバックグラウンドの人々と協業することが必至だ。私は、これからは「日本人だけが日本のために頑張っていく時代」ではなく、「日本のことを大切に考える人達が(例え日本人ではなくても)、日本のために頑張っていく時代」であると考える。これを前提にした時、DE&Iのレベルを上げていくことは、日本の未来にとって必要不可欠な戦略的リソースになるのではないだろうか。
「循環型経済」という視点
これからの組織の「あるべき姿」を語る上では、循環型経済(IDEOではサーキュラー・デザインと呼ぶ)の実現に関する議論も欠かせない。IDEOでは、この課題と現状について、「社会、経済だけでなくビジネスにとっても大きな価値を生み出す戦略的な機会」と前向きに捉え、分野横断的な取り組みをリードしていきたいと考えている。
我々の事業の一つに「CoLab」と呼ばれるプラットフォームがあり、複数企業を集めて特定のテーマに沿った異業種コンソーシアムをつくり共同で研究開発をしているのだが、数年前からここでもサーキュラー・デザインを取り上げている。