リモートワークやオンライン授業が普及し、私たちの生活様式が大きく変わりつつあるいま、地方への移住は以前よりも容易になっている。ウィズコロナの時代には、日本での「住みたい街」も変化していくのかもしれない。
新型コロナウイルスから命を守るためのウェブサイト「PANDAID」を立ち上げ、世界中に広がる感染者の状況を可視化する活動をしている、デザイン事務所「NOSIGNER」代表の太刀川英輔と、公共空間のあり方について思索する都市戦術家の泉山塁威の対談連載。(前回はこちら)
今回は「ウィズコロナ時代の地方都市」をテーマに、都心との関係がどのように変化していくのかについて紐解いていく。
コロナ禍で魅力が増した「緑の山手線」エリア
太刀川:今回は、ウィズコロナの時代に東京と地方都市の関係がどのように変化するのかについてお話できたらと思います。
現代の日本では東京に仕事も暮らしも一極集中しているので、感染拡大によるインパクトは東京が一番大きかった。逆に地方都市は、東京ほどの影響はなかったように思えます。こうなってくると地方都市に可能性を感じます。
泉山:そうですね。「密」を避けようとする意識が多くの人に共有されるようになってからは、人口過密が問題視される東京よりも、地方都市に価値を見いだす人は増えるかもしれません。
進学などの理由で東京に出てきた後、生まれ育った出身地に戻って就職したりすることを「Uターン」と言いますが、そういうキャリアデザインに魅力を感じるひとも、おそらく増加するでしょう。
前回の対談では、ウィズコロナの時代には商店街のような「半径500m圏内」のつながりが再評価されるという話をしましたが、地方都市の中でも、いわゆる城下町や宿場町と呼ばれていたエリアに注目が集まるのかもしれません。というのも、かつて城下町があった場所には、商店街を基本としたひとつの商圏ができていることが多いんですよね。
太刀川:城下町って街としては非常にシンプルなことが多いですよね。駅前とお城の周り以外は決して人通りは多くない。だからこそ商店街からほんの少し裏手の物件なんかを見てみると、東京の街に負けじと便利なのに、安価で手に入れやすいことがよくある。日常生活で頼るのは「500m圏内のコミュニティ」だと仮定したら、東京の5分の1の値段で充実した生活が過ごせることも少なくない。これってすごく魅力的だと思います。
これから人気が集まりそうな地方都市という観点からいうと、郊外の避暑地やリゾート地が再評価される可能性もあると思います。関東平野を航空写真で見ると、都市と自然地帯の境目がよくわかります。例えば軽井沢や箱根などは、自然に囲まれている地域でありながら、都心までのアクセスもいい。こういう地域は西から時計回りに、箱根・奥多摩・軽井沢・那須とつながっています。千葉の房総半島や鎌倉、葉山エリアも同様です。これを僕は関東平野の「緑の山手線」と呼んでいるのですが、最近このエリアへの需要が高まってきています。
今後はかつて栄えたリゾートや城下町、宿場町が復活するプロジェクトも生まれるかもしれません。