「フードテキスタイル」という名前の通り、食品会社が廃棄せざるを得なかった野菜や食材を染料とし、アパレル企業などとコラボして、食材の素材に近く優しい色合いの衣服や靴を生み出している。
手がけるのは、来年には創業180年を迎える名古屋の老舗繊維商社「豊島」。すでにブランド化もされ、「FOOD TEXTILE」として商品展開もされている。独自の技術を駆使して国内で食品廃棄物を染料として再利用するプロジェクトは、フードロス問題の解決にもつながり、サステナブル志向の海外のブランドからも注目されている。
30歳を目前に感じた疑問 異業種の同じ悩みに出会った
このプロジェクトを中心となって進めてきたのが、豊島の谷村佳宏チーフだ。大阪府出身で、現在36歳。学生時代は商社マンに憧れて、服好きだった自分がイメージしやすいアパレル系の商社を選んだ。
入社後は、「1日1日が勝負だ」と自分自身を鼓舞して、20代は朝から晩まで馬車馬のように働いた。しかし、30歳を前にして谷村は、ひとつの壁にぶち当たっていた。
業界ではファストファッションが隆盛し、大量生産した低価格の商品を短いサイクルで売るというビジネスが主流を占めてきていた。
谷村自身も、会社が請け負っていたメンズアパレルのOEM生産の部門で、ヤングカジュアルという特に安価なゾーンを担当していた。中国やASEAN諸国で、低コストで生産され、大量に売った生地でつくられた商品は、残ると在庫処分されていく。谷村の心中には「こんなん違うやろ……」という思いが芽生えてきたのだ。
2014年の年明け、谷村には転機となる出来事が訪れる。
日々、「40歳になっても同じような仕事はできないだろうな。殺伐としているこの業界、これからどうしよう」と考えていた。そこで、「業界の外へ飛び出して、新たな情報を取りに行こう」という攻めの姿勢で、東京で開かれた異業種交流会に参加したのだ。
「余るんですよ。でも、全部、捨てちゃうんです」
異業種交流会で谷村に、困ったようにそう打ち明けてきた相手は、大手食品メーカー「キユーピー」のCSRの担当者だった。言わずと知れたマヨネーズを主力商品とするキユーピーでは、原料として卵を大量に消費していたが、その殻は、カルシウム強化食品、肥料、壁紙の資材などのため100%再利用されていた。
しかし、玉ねぎの皮など野菜の未利用部については、有効活用のためにさまざまな試行錯誤をしてきていたが、良い施策が見つからず、さらなる食品ロス削減のために担当者は頭を悩ませていたのだ。