染色方法は「企業秘密」として特許を取得しているが、食材による天然染料は90%で、化学染料については色を定着させる糊の役割として10%未満に抑えている。国内の5社ほどの染色工場と提携しており、これは日本でしかできない独自の染色技術だという。
天然染料の色を定着させるために数回加工するので、価格も通常より2~3倍に膨らむ。すると、こんな疑問も浮かんできた。「この値段で、例えばキャベツで染めたTシャツを着る理由があるのか」。消費者の前に、まずはアパレル企業やバイヤーに理解してもらう必要性があった。
フードテキスタイルの「色」の秘密
地道な声掛けで始動から1年半後、2016年8月には初のブランドコラボレーションとして、若者に人気で、環境に優しいロングライフ商品を提案するブランド「アーバン リサーチ ドアーズ」とコラボして、淡くて優しげな色合いのバッグとエプロンの販売にこぎつけた。
2018年には、フードテキスタイル初のオリジナルプロダクトラインも完成。生地だけでは、バイヤーやアパレル企業にプレゼンをしても、なかなかイメージは伝わりにくいし、まして消費者にも届かない。最初から独自の製品をつくることでフードテキスタイルを世の中に広めることを考えたのだ。
下の画像は、オーガニックコットンのTシャツだが、手前の右からブルーベリー、真ん中がレタス、左はムラサキキャベツが染料。パステルカラーのような淡い色展開が魅力的だ。
谷村に染色にあたって心がけたことを聞くと、次のような答えが返ってきた。
「狙って色を出しているのではなくて、食材本来の色の中で良い色合いをチョイスしています。例えば漢方系のものだと、ドスンと濃い色になり、食品の持つパワーを感じます。柔らかい色もあれば、力強く出る色もあり、食材によってさまざまです」
意外だったのは先述した赤カブ。赤い色合いかと思いきや、ピンクだけでなく落ち着いたブルーも出るという。コーヒーはイメージ通りにブラウン系の色合いだが、豆の種類によっては白やベージュ、イエロー系も再現できる。
1回の生産ロットで染料として必要な廃棄食材は5kgほど。これがTシャツ1000枚分の染料に生まれ変わる。
現在は特定の卸先は定めていないが、昨年秋に3カ月間ほど金沢の21世紀美術館で販売したところ、観光客からも想像以上に反響があった。EC販売では、30代~40代の女性を中心に購入され、リピーターもいる。どうやらデジタルとの相性も良く、1点ものを好む人や、買うものへのストーリーを意識する購買者を惹きつけているようだ。
だが、谷村はこう語る。
「フードテキスタイルという言葉はキャッチーだけど、まだまだ一般的には知られていません」
8月末には「フードテキスタイル」はリブランディングを控えている。卸販売とEC販売を強化するのだという。