ビジネス

2020.09.06 10:00

屋根は観客席。805平米のスタジアムに建つ「登れる家」

 写真/大倉英揮


「つぼノート」から飛び出した“子どもタワー”


西久保は依頼主に必ず、「スクラップブック」を作って渡してもらうという。名付けて「つぼノート」だ。
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「食べ物でも音楽でも洋服でも、暮らしにまつわる好きなこと、『これが自分にとってのツボだ、ど真ん中だ』を全部教えていただくためのノートです。住宅を作るからこそ、建築に関係なければない程大歓迎です」とのこと。

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依頼主に作ってもらう「つぼノート」

江頭氏は今回、2冊のつぼノートを西久保氏に託したという。
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「子供室」のイラスト

たとえば江頭家では、子どもがまだ小さい。だから江頭氏は「つぼノート」で、「子ども部屋にはオープンで未完成な状態を残したい」という要望を伝えたという。そしてその通り、子どもたちのための場所は、開放的な空間「子どもタワー」になった。

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まるで「秘密基地」のような空間の子供室

脚立などを使って簡単に昇ったり降りたり(部屋に入ったり出たり)できるため、子どもたちには「秘密基地」のような空間だ。「完了していない」状態で子どもたちの想像力と創造力をかきたてたい、という西久保氏の意図も生きている。

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リビングの奥にある白い壁の向こうが子供タワーとなっている。

「家にいても外とつながっている」


屋根材は、子どもが駆け回ることを考えて滑りにくい「アスファルトルーフィング」にした。

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屋根の上で駆け回る子供たち

屋根では駆け回るばかりでなく、座っておしゃべりをしたり、お昼を食べたりもする。緩傾斜と軒の低さは「危険でない」から活発な活動をうながすが、逆にゆったり過ごすのにもぴったりだ。ここにも「デュアル」な可能性が実現されている。

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子供タワーからリビングを見下ろす。キャットウォークを通じて屋上に出ることも、写真のように来客を出迎えることもできる。

もともと家は、建築学的にいえば、雨風から暮らしを守るという機能が第一義な「外皮」でよいはずだった。「でも、そこを超えて、大地とつながったり、人とつながったり、秘密基地を内包していたり。そんな家にしたかったんですよね」と西久保氏はいう。

「『新しい日常』で在宅時間が長くなることから、本当に求められる家。それは、『外の風景や営み』が暮らしとともにあって、外出できなくても街とつながっているような、家の裾野が『外』に向かって伸びているような。そんな建築なんじゃないかと思います。敷地境界線の中に、ではなくて、ああ、この街に住んでいるんだなぁ、としみじみ感じられる家が最高です」

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写真/深野未季

西久保毅人◎1973年佐賀県に生まれ、育つ。1995年明治大学理工学部建築学科卒業。1997年同大学院修了(小林正美教授に師事)。象設計集団、アトリエハルを経て2001年一級建築士事務所ニコ設計室設立。近著に『家づくりのつぼノート』(エクスナレッジ)。

文・編集=石井節子

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