「屋根に登れる家」敷地のある場所の地図
話を聞く前に、「屋根に登れる家」の敷地のある場所を地図上で見せてもらった。田園風景の続く、佐賀平野の北端部だ。
敷地は803平米
敷地は803平米。なるほど、「フットサルコートとほぼ同じ大きさ」がうなずける広さだ。
「サッカースタジアムの観客席とグラウンドの関係」から構想したイラスト
西久保氏は空き地と屋根の関係を、「サッカースタジアムの観客席とグラウンドの関係」に見立てて設計した。
「居住性」と、未来への「接続性」の両方を━━
そのため、屋根は勾配をゆるくし、地面に近く設計する必要があった。ただ、「軒先の高さ=h」をあまり低く抑えると家の中からは庭に出にくくなり、暮らしと庭の関係が希薄になってしまう。
そして、「h」を一般的な軒の高さに上げてしまうと、1階の居室と庭の関係は強くなる反面、今度は「庭で起きるできごと」と屋根との関係が薄くなってしまう。
「軒先の高さ=h」とした設計のイラスト。hを低く想定したもの。
「居室と庭」、「庭で起きるできごとと屋根」。「805平米のスタジアム」の将来を考えるとき、この2つはともにどうしても手放せない条件だった。
「住宅としての『居住性』と、フットサル練習場や子供のサッカースクール、畑や店というこの敷地の未来や地域への『接続性』。その両方を獲得する建築の姿を見つけたいと思ったんです」
はじきだされた軒と地面の距離の最適解が、冒頭で紹介した「1.3メートル」だった。子どもにも怖さを感じさせず、外と暮らしがつながる距離であり、高さである。
江頭邸、下屋根の上で遊ぶ子供たち
そして、下屋根の上では子どもたちが活発に活動し、その下では家族がのんびりと過ごす、そんなデュアルな構造をかかえこんで、家は完成した。西久保氏はこの風景を「下屋根のスタジアム」と名付ける。
玄関はサッカーのロッカールームのような仕様となっている。ここにも、サッカーを愛し、サッカー好きな子どもたちを愛する江頭氏のこだわりが見られる。
「大地とつながる」家
下屋根のイメージ
上は、この家のイメージを西久保氏自身がイラストにしたもの。「暮らしを包み、守りつつ、地域や大地に手を差し出してもいる。両方を実現した家ができたと思います。そしてこの絵は実は、江頭氏の人柄そのものなのですよ」。
ここはまさに、大地と家が「グルグルつながって」、循環している住空間なのだ。
江頭邸、地面と下屋根の上でサッカーボールを使って遊ぶ子供たち。玄関にかかる下屋根部分だけが地面まで伸びていて、その下は自転車置き場。こんなに低い軒先は、通常の建築ではほぼ見られない。
インナーテラスから見た、アプローチと玄関。手前で歩いている子供との比較から、軒先がどれだけ低いか分かる。写真/大倉英揮
設計図。シンプルな十字形で、4つの性格の違う空間が生み出されている。西側のエリアはパブリックな性質の大空間で、その他はプライバシーが守られた住空間。