この家については、港区白金台「建坪5坪の超狭小住宅」に世界から人が集まる理由に詳しく書かれているが、外壁が内向きにカーブを描き、ただでさえ狭い住空間を削っているのに、ひとたび中に入れば、大木に身を寄せたような錯覚を起こさせる壁の弧が、憩う人の気持ちを伸び伸びとさせる。この不思議も評価の理由だ。
最近ではAirbnbで「都心の森のタイニーハウス」として人気を博し、世界から旅行者が訪れている。
そして、この事例から始まった試みがある。住む人が転勤などで家が空き家になった場合、その家を建てた建築家が管理し、世界からの旅行者の「旅の止まり木」として提供する「birdプロジェクト」である。
週末は「家にも働いてもらう」という発想
建て主であり、この家の持ち主である飯島氏は言う。「『Airbnb』で世界からの旅行者にこの家を貸しているのは、『この家いいだろう』と見せびらかしたい、というのが原点ですが、あとは、どんどんいろんな人に触ってもらい、可愛がってもらうことで、家は完成すると思っているので」と飯島氏は語る。
飯島邸は現在Airbnbで「都心の森のタイニーハウス」として人気を博し、世界から旅行者が訪れている。
ちなみに夫妻は週末、家を貸している間、千葉の九十九里のセカンドハウスで過ごす。つまり、週末の海辺での滞在費用を「自宅に稼がせている」と言ってもいい。
ゲストはほとんど海外の富裕層の旅行者。日本人が思っている以上に、日本にはホテル以外の宿泊施設のバリエーションが乏しいという。「街に住みたい、住んでいる人と同じ体験をしたい」という旅行者は、日本人の想像を上回って多いのだ。そんな需要に、このユニークかつ詩心のある狭小住宅はぴったり合致し、週末はほぼ空きがないほどの人気だ。
「世界中の人が、『すっごく小さいけど、すっごく楽しかった』と言う気持ちを、いろんな方法で残して行ってくれます。黒板に絵が描かれていたり、ちょっとした置き土産が残っていたり。いいデザインは世界共通だと確かめられたことも、貸してよかったと思う理由です」と飯島氏は言うが、果たして、丹精して作った物を人に貸すのは抵抗がないのだろうか。
世界の渡り鳥たちの「止まり木」に
「大切に作ったものを大切に差し出せば大切にしてもらえるという『連鎖』は感じますね、今のところ。そもそも、『ただでさえ小さな家なのに、壁が削られている』ような場所を旅の止まり木に選ぶような人を、家の方も選んでいる。そこでお互いの『お見合い』は済んでいるんじゃないでしょうか」
この家を設計した「ニコ設計室」の建築家、西久保氏は言う。