佐賀県嬉野市の特産である「肥前吉田焼」の窯元に密着していたある日、東京から来たお客様を工場案内しながら、彼はこんなことを言いました。
「商品が完璧にできたかどうかは、窯から出してみるまでわからないのです。職人さんは“ぺっぴんさん”をイメージして最後の最後まで手を抜かず、丁寧に作業をしています。でも、窯をあけてみたら黒い点があったということがあるのです。窯元にとって自分が手がけたモノは自分の子どものようなものです。
本当の子どもだったら“えくぼやほくろ”があってもカワイイじゃないですか。ぼくらも同じなんですよ。黒い点はほくろで、凹みはえくぼのようなもの。かわいい子どもに変わりはありません。でも、それらは、検品ではじかれて規格外品になってしまうのです」
上:画面の真ん中にある黒い点は粘土に含まれる鉄分が浮き上がってできた「ほくろ」、下:右下の小さな凹みは釉薬に含まれる空気がはじけてできた「えくぼ」(C)肥前吉田焼窯元協同組合
他にこんなことも言いました。
「僕らは環境破壊をしています。焼き物は、地球を穴だらけにして石や土を掘り出して粘土にし、それを大量の二酸化炭素を排出しながら焼いて作ります。ぼくら、窯元は、地球環境を破壊している責任を全うするために、作った商品をなんとかして、世間の皆様に使ってもらえるモノにする義務があると思っています」
窯元の想いが、言語化された瞬間でした。
「えくぼとほくろ」プロジェクト誕生
キズは個性だ。
この想いに共感した6軒の窯元が集まり「えくぼとほくろ」というプロジェクトが始まりました。
6軒の窯元には、それぞれの工房に小さな「えくぼとほくろショップ」を開設して、正規品の約半額程度で販売することになりました。
窯にいれる器を一つ一つ丁寧に棚に並べる窯元。(C)肥前吉田焼窯元協同組合
流通に乗せない分、価格を安くしても利益はでます。ですが、価格の安さは前面には出しません。低価格を売りにすると、キズ=不良品だから安い、というマインドが売る方にも買う方にも生まれてしまうからです。
器は自然物で作られていること、職人さんが精魂込めて丁寧に作っていることをみてもらうために「工場見学」もセットで実施しました。