ビジネス

2020.07.30 17:30

ペーパーレスが加速する時代に、筆記具の「ゼブラ」が見つけた未来


国によって好まれる筆記具は異なる


──海外展開について教えてください。


グローバル展開については、アジアを含め海外市場を捉えていくことで、事業を伸ばしていきたいと考えています。日本製の筆記具は相対的に単価が高いのですが、我々も技術には誇りを持っていて、発展途上国でも所得が伸びるにつれて選ばれるようになってくるのではないかと期待をしています。とにかく海外市場の開拓には力を入れています。

──国毎に戦略を考え、事業を推進していく形でしょうか。

そうですね。面白いもので、国によって好まれる筆記具の傾向が異なります。例えば、韓国は日本と似ています。日本で販売している商品をそのまま現地に持っていっても売れます。中国も最近はそのようになってきました。筆記具に対して比較的「こだわり」を持っている人たちが多いと言えます。

一方、インドネシアは、日本の製品をそのまま持っていってもなかなか売れません。前述の所得の事情もあるのですが、高所得者層もあまり興味を示さないので、国民性もあるのだと思います。北米も似ています。アメリカは経済発展していて所得もありますが、アメリカ人は筆記具に対して「書ければそれで良い」くらいに思っていて、強くこだわることはありませんね。

──「筆記具」とひと括りで捉えてしまいそうになりますが、販売する先の国に合わせて細かなスペック調整が必要になるのですね。

はい、それでも弊社の核となる技術は変わらないので、我々が海外で販売する製品は中国やアメリカの地場メーカーよりは値段が高くなってしまいます。とはいえ、海外では「低価格でも高品質」を追求する戦略をとっています。

数年前の話になりますが、インドネシアで現地の学校を訪問させてもらったことがありました。その時に、生徒が、1冊ノートを使い終わったらそれを全部消しゴムで消して、そしてまた使っているのを見て、ノートも消耗品ではなく貴重品として扱われている事情を知りました。

私が「どのようなペンがあったら嬉しいですか?」と生徒に質問すると、「ちゃんと最後までインクを使い切れるペンが欲しい」と言われました。日本ではインクが最後まで使えるのが当たり前なのですが、現地ではペンの品質が悪く、すぐに壊れてしまい、インクがまだ残っていても使うことができなくなってしまうようです。

そのような現状に触れたことで、「現地の人に買っていただける値段で、少しでも品質の高い商品を提供し、筆記具を生徒たちの学びの助けとして使ってもらう」ことを目指すようになりました。

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──グローバル戦略の中で、とくに意識されていることはありますか。

弊社では、日本で主たる技術開発を行っているのですが、その機能をインドネシア、メキシコ、中国といった自社の海外工場に、いかにして移管していくのかが課題としてあります。その一環で、インドネシア工場の技術者に、日本の工場で3年間技術のことを学んでもらって帰国してもらうといった取り組みも実施しています。「技術を世界へ」ということです。

海外では、販売数量をより増やして売上を伸ばしていきたいので、そのための先行投資を続けています。ヒト・モノ・カネのリソースを積極的に海外に投入しています。かたや日本では、リソースの量的な投入というよりは、研究開発に力を入れて、文房具好きの日本人のニーズにしっかりと応えていく、そのように戦略を棲み分けています。
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文=吉田健太朗 写真=原 哲也

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