今回は、ペーパーレス化が進展する社会で、筆記具メーカーであるゼブラが、どのような次の一手を考えているのか、そのグローバル戦略も含めて、創業家出身であり、現在、取締役を務める石川太郎氏に話を聞いた。
──ゼブラは120年以上の歴史を誇る日本の筆記具メーカーですが、人口減少や社会でのペーパーレス化促進などで、いまは逆風の中にあるように見えます。
おっしゃる通りで、ICTが発展し、ペーパーレス化はますます進んでいきます。紙自体が減れば、筆記具需要も当然減ります。この波は避けられませんので、筆記具業界としては、デジタルとアナログをどう共存させていくのか、どう棲み分けていくのかを考えていく必要があると思っています。
例えば、我々は考えごとをする際に、「パソコンを使って考える」こともあると思いますが、「まずはラフに構想を整理するため紙とペンを使う」ことも多いと思います。構想をまとめるための前工程ではペンを使い、それをきれいなアウトプットに仕上げるための後工程としてパソコンを利用する、このような棲み分けの中に筆記具の可能性は残されているのではないかと考えています。
学生時代、「書く」ことで英単語を覚えた人もいるかもしれません。「書いて覚える」と「目で見て覚える」に関しては、その長所短所がさまざまな形で議論されていますが、弊社でも本格的に研究を行っています。同じ「書く」でも、パソコンのキーボードを打って書くのと、筆記具を使って手で書くのとでは脳に与える効果は異なります。ということで、いろいろ専門家を巻き込みながら、脳科学の観点から「書く」ことの意味を捉えようとしています。
これからは「記録を残すための手段」としての筆記具のみではなく、「人や脳に対してプラスの効果を与えるもの」としての筆記具、そのような開発をすることで新たな付加価値を追求し、活路を見出すことができると考えています。
──他にも筆記具にはどのような可能性を見出していますか?
今日のようなデジタル社会だからこそ、映えるアナログなものというのもあります。例えば、カラーペンで絵を書いて、それをインスタグラムにアップして発信するような人たちも出てきています。このように、「使うことで楽しめる筆記具」もつくっていきたいですね。
弊社の「マッキー」もそうなのですが、これまでは、オフィスで使われることを想定して商品開発をしてきました。最近ではコロナ禍の影響でテレワークも増えていて、大きな流れとしては、筆記具のオフィス需要は減っていくものと考えています。そういう背景もあり、数年前から嗜好品の文具開発を強化すべくシフトしています。色数が豊富なペンなどは、女子高生が絵を書いたりするのに好まれ、着実に販売数量を伸ばしています。