ビジネス

2020.07.20 18:30

問題山積 ソフトバンクが提携する米エネルギー企業の実態

ブルーム・エナジー共同創業者でCEOのKR・シュリダー


驚きのペースで前進している?


シュリダーは、創業からの10年で自身の燃料電池テクノロジーが1基3000ドルで販売され、すべての家庭に普及している未来を想像していた。しかし実際には、米国でブルームのボックスを設置している家庭は一つもない。カリフォルニア州ウッドサイドにある760万ドルのシュリダーの自宅にさえない。
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現在、シュリダーのボックスのユーザーの大半は産業顧客や商業顧客だ。費用は1基約120万ドル。補助金抜きで計算すると1kWh当たり約13.5セントで発電していることになる。一方、電力会社の送電網が供給する電力の発電コストは、全米平均では1kWh当たり10セントだ。

しかも真の再生可能エネルギーを使った電力は、いまやブルームの電力より安価になっている。資産運用会社のラザードによると、補助金抜きのコストは太陽光発電、陸上風力発電ともに1kWh当たり4セントだという。

とはいえ、シュリダーは弱気になってはいない。むしろ「かなり驚きのペースで前進している」と言っている。
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シュリダーは1960年生まれ。停電が日常であるインドで育ち、南部のタミル・ナードゥ州にある国立工科大学トリチー校で学んだ後、機械工学の博士号を取得すべく米国にやって来た。その後、アリゾナ大学の宇宙技術研究所に勤め、米航空宇宙局(NASA)の火星探査ミッション用の酸素発生器の開発に取り組んだが、1999年に火星探査機マーズ・ポーラー・ランダーが墜落するとシュリダーのプロジェクトは中止になった。彼はくじけることなく、その技術をほぼ反転させ、メタンと酸素を二酸化炭素と電気に変換する技術の開発に取り組んだ。

2008年、シュリダーはブルームの最初のボックスをグーグルに設置した。著名なベンチャー投資家でシュリダーの力になってきたジョン・ドーアは、長年、グーグルの取締役会に籍を置いている。

問題は当初からあった。最初のころの発電機は、現在のように自動組み立てラインではなく、サンタクララ郡のモフェット連邦飛行場で、手作業で組み立てられていた。初期のボックスは24時間監視が必要で、約10cm四方の燃料電池ウエハーを数百枚積み重ねた内部モジュールは、年数回の交換が必要なうえに、22万5000ドルもかかった。ろ過システムも厄介だった。金属製のキャニスター(筒状容器)に小石状の固体触媒を詰め、硫黄やその他の混入物質をメタンガスから分離するシステムなのだが、これが腐った卵の臭いを近隣にまき散らしてしまったことがあるという。

しかし、ドーアとシュリダーは、まるですべきことがすべてわかっているかのように振る舞った。2人は10年、テレビ番組「60ミニッツ」のインタビューで、ブルームのボックスはクリーンでグリーンな発電の未来であると称賛した。

「ブルームのボックスは、電力会社の電力網に取って代わることを目指しています。電力会社の電力網より安価でクリーンなのです」

ドーアは番組でそう語っている。直後に行われた記者会見ではシュリダーが、ボックスは「1kWh当たり9~10セント」で電力を供給できると記者たちに語っている。しかしブルームは、10年の補助金抜きのコストが1kWh当たり19セントだったことを認めている。一方、再生可能エネルギーのコストは、どんどん安くなっている。例えばロサンゼルス市は先ごろ、ある企業と太陽光発電と蓄電池を組み合わせた電力を1kWh当たり2セントで購入する25カ年契約を締結している。


ブルーム・エナジーは2013年、ソフトバンクと合弁会社「ブルーム・エナジー・ジャパン」を設立。東日本大震災で深刻な電力不足を体験した日本で、クリーンで低コスト、かつ安全な電力の安定供給を目指す。企業敷地内に効率的発電設備を設置できるのが大きな強みで、東京汐留ビルディングや慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスほか国内の企業、団体に加え、韓国の企業でも導入されている
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文=クリストファー・ヘルマン 写真=ティム・パネル 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

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