KR・シュリダーは、山火事の煙の中にチャンスの匂いをかぎ取った。シュリダーの上場企業「ブルーム・エナジー」は燃料電池を販売している。天然ガスを使って発電するスチール製の“ボックス(箱)”だ。同社が「エナジーサーバー」と呼ぶこのボックスは、ほぼ二酸化炭素からなるガスを排出する。二酸化炭素は温室効果ガスだが、エナジーサーバーの生成量は従来の発電所に比べ大幅に少なく、酸化窒素や硫黄酸化物が大量に生じることがないという。
さらに素晴らしいことに、この製品は地中に埋設されたパイプライン経由で燃料の供給を受けるため、時折北カリフォルニアに吹く暑くて乾いた強風「ディアブロ風」の影響を受けない。
ブルーム・エナジーはいま、19年の山火事の際の計画停電を材料に火災危険区域で営業をかけている。送電網に障害が生じても、ブルーム製品を電源とする「マイクログリッド」があれば大丈夫だとアピールしているのだ。ブルームの以前からの顧客は19年の停電も切り抜けられたというのだ。
創業からの19年間で、ブルームは「アップル」や「AT&T」「ペイパル」といった世界の大手テック企業向けに重量15tのボックスを数千基設置してきた。これらの企業は、データセンターへの電力供給が24時間365日保証されるなら出費を惜しまない。ダウンタイムには1分当たりのコストが約9000ドル(約95万円)もするためだ。
ブルームの顧客は、例えばニューヨーク州のように電力価格が高く、クリーンエネルギーの導入に多額の補助金を出している州に多い。ホームセンター大手の「ホーム・デポ」は同州で、「経済的に理にかなう地域であればどこにでも」予備発電機としてボックスを設置している。また、カリフォルニア工科大学では、ボックスが10年以上にわたりノンストップで稼働しており、パサデナにあるキャンパスで使用される電力量の30%近くを供給している。
そう考えると、ブルームは現在、頭角を現していてしかるべきだ。シュリダーも、「フラッキング(水圧破砕法)のおかげで、天然ガスの心配はありませんし」と言っている。だが、シュリダーのボックスによる電力網の変革は、カリフォルニアでも、ほかの地域でも起こりそうにない。理由はいろいろあるが、つまりはブルームのテクノロジーの環境汚染度が高く、コストもかかり過ぎるということなのだ。