自宅リビングから53連夜。小曽根真ライブ、集客は「1晩でホール8個分」

撮影:小田駿一

2020年も半ばが過ぎた。今年のはじめには、「東京オリンピックはどうなるのだろう?」というような話題で盛り上がっていた。ところがその後、新型コロナウイルスが世界で猛威を振るい出し、オリンピックはおろか、コンサート、ライブなどあらゆるイベントが中止になった。「不要不急」の外出が制限される生活が待っていようとは、いったい誰が想像できただろうか。

そのような自粛生活のなか、多くの人の「心のよりどころ」として話題となったあるネット配信がある。ジャズピアニストの小曽根真氏と女優の神野三鈴氏夫妻による自宅オンラインコンサート「Welcome to Our Living Room」だ。

ふたりがリビングルームコンサートをはじめたのは、緊急事態宣言が4月7日に発令された2日後のことだった。なぜそんなにすばやく開催することができたのか? そして、多くの人を引き寄せた理由やこのコンサートに込めた思いについて、「Welcome to Our Living Room」最終日の会場となった渋谷・オーチャードホールの客席で、小曽根真、神野三鈴夫妻に話を聞いた。

(後編)「世界のオゾネ」が妻、そして27万7000人と起こした奇跡


写真提供:ヒラサ・オフィス

「チック・コリアやボブ・ジェームスなど、世界的に有名な海外の友人ミュージシャンは、我々がコンサートを開催するより10日ほど前、欧米でロックダウンが宣言されるとほぼ同時に動画配信をはじめていました。Tシャツ姿での自宅の練習風景など、なかなか見られない映像でした。それは家にこもっている人たちの気持ちがふさがないように、という思いを込めてのことでした」(小曽根氏)

それを観た小曽根氏は妻の三鈴氏と「日本のロックダウンは時間の問題だろう。自分たちも何かできないか?」と話し合った。

有事の中、「9時に行けば小曽根がいる」の日常を


「今回のコロナ禍は、たぶん今生きている人誰もが経験したことのない事態。だから、何が正しいことなのか、誰も答えられない。まさに『有事』です。有事のときには日常がなくなるんですよ。これまであったものがなくなってしまう。だから、皆さんの中に、何かひとつでも『日常』をつくりたかった。お仕事などで忙しくて聴けない日があるかもしれない。でも、『毎晩9時に行けば小曽根がいる』、そんな場がほしかった。世界中の人たちが毎日帰れる場所を提供したかったんです」(三鈴氏)

世界中のみんなが安心して帰れる場。それが小曽根邸での「リビングルーム」だったのだ。「Welcome home」「おかえりなさい」の一言に、一日の疲れが吹き飛び、心がほぐれる思いがした方も多かったようだ。

「僕は、たった15分でもいいからみんなに美しい音を届けたいと思った。今のインターネットのクオリティの高さを考えれば、それが可能だと思ったのです」(小曽根氏)

リビングルームコンサートを決めた理由はもうひとつあった、と三鈴氏は言う。
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文=柴田恵理 撮影=小田駿一 編集=石井節子

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