「音楽の在り方について、見直すきっかけになった」というのは、ジャズピアニストの小曽根真氏だ。小曽根氏は女優の神野三鈴氏とともに、緊急事態宣言発令の2日後にあたる4月9日から53日間連続でオンライン自宅コンサートを配信。最終日は今回のインタビュー会場にもなった渋谷・オーチャードホールで演奏し、実に1万7000人の人々を魅了した。53夜の「のべ」観客数は、実に27万7000人にものぼる計算だ。そこまで人々を惹きつけた「リビングルームコンサート」という装置について、そこにかけた思いについて話を聞いた。
(前編)自宅リビングから53連夜。小曽根真ライブ、集客は「1晩でホール8個分」
インターネットはアーティストを鍛える
今回、“不要不急”の事案として真っ先にコンサートやライブなどが挙がったように、日本では特に音楽は時間とお金に余裕のある人がたしなむもの、かしこまって聴くもの、というイメージが強いのも事実だ。でも、「音楽は構えずに。聴く人の感性のままにもっと自由に聴くもの」だと小曽根氏は言う。そういう意味で、インターネットは最適な存在だ。なぜなら「イヤだったら配信を切ればいい」から。
もし4万円も出して聴きに行ったベルリン・フィル・オーケストラのコンサートだったら、なかなかそうもいかないだろう。さらに、その音楽のよさがわからなかったら、「自分の感性が悪いんだ」とすら思ってしまいがちだ。
「でも本当はそうじゃない。ベルリンフィルだって、時にはピンとこない演奏をすることだってあるんです」と小曽根氏は言う。20世紀最大のジャズ・ポピュラー界の音楽家と言われたデューク・エリントンだってコンサートでブーイングをされたことがあるというから、「有名な人の演奏は100%すばらしいもの」と思い込む必要はないということだ。
インターネットは、アーティスト側にとっても真価が問われる恰好の場だという。小曽根氏は今回はじめて、知名度に関係なく、純粋に自分の音楽を評価される機会を得たと感じた。
「(インターネットは)自由に出たり入ったりできる場だからこそ、実はアーティストも鍛えられるというところがすごくあって。特に、有名になってくると純粋に自分の音楽を評価されるチャンスにはなかなか巡り合えないんです。『名前』だけで売れちゃうから。逆に、名前が売れていないときなんかは、どんなにうまい演奏をしたってぼろくそに言われたこともありました」(小曽根氏)
絵画でいえば、「ゴッホの絵だからいい」と思われがちだが、ゴッホの作品だって自分の心には響かないこともある、ということだろう。インターネットでは、「肩書」や「知名度」というフィルターが取っ払われる。
演奏者と聴き手は「対等」であるべき
本来、演奏者と聴き手とは 「対等」の関係にある、と小曽根氏、神野氏は考える。
小曽根 真氏
「芸術って、聴く人の琴線に触れられたら、それでオッケーなんです。僕らはただ音を出すだけ。『いいね』と感じるかどうかは聴き手の感性です。そこがつながったら、あとは『どうぞ!』って。