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2020.07.16

虚構と現実 USJとディズニーの価値創造手法はどう違うのか?

tipwam/Shutterstock.com


では、どうするか。虚構(のはず)がリアルに現れると、その驚きは想像を超える。USJでは「虚構の現実化」こそが重要なのである。映画で体験した虚構が、現実世界として眼前に出現することは、ものすごい感動を生む。要は、現実を映画のように創ることで、虚構が現実であると錯覚させる、つまりTDRの逆になることが、USJの最大の長所となるのである。

話がややこしくなってきたので整理すると、TDRは「虚構的につくる」がキーワードだ。つまり、現実(千葉)から虚構(TDR)の世界へワープする。キャラクターが住む夢の世界の住人に自分も「変身」することでワクワクが生まれる。

一方のUSJは、「現実的につくる」がキーワードだ。虚構の世界(映画)が現実(USJ)にワープする。映画でリアルに描かれていた虚構の世界が目の前に出現することで「興奮」が生まれる。それはTDRとは反対のベクトルを辿ることになるのだ。

つまり、USJのすごさというのは、「虚構だと思っていたことが現実にある」ことから生まれる価値なのである。そこの迫真性が大きいと興奮も大きい。

かくして、「USJには、徹底的にこだわった、映画よりリアルな容赦のないリアリティが必要である」と結論づけた。しかし、当時はそれが本当に理解されることはなかったように思う。理解していても、現実化することへの熱意が問題だったかもしれない。

約10年後、それらを実現するかのように「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」をオープンさせるのであるが、それからの快進撃は周知の通りである。

ここで、言いたいのは、USJがスクラッチからあり方を変えたわけではなく、「ハリー・ポッター」の存在がUSJの価値を変えたということである。

USJ全体を商品として見たら、「ハリーポッター」はその一部だ。商品に見立てると、該当するのは、ネーミングやパッケージングかもしれない。しかし、それは前回このコラムで紹介したピカソの「ゲルニカ」という名称ぐらい、そのものの本質を180度変えて見せてしまう存在となる。

USJが、「大掛かりなハリーポッターの世界」をつくるという発表を知ったとき、「これは行く(結果を出す)」と思ったのだが、同時にそのチャレンジは「いまは、それを実現するすごい人がUSJにいるのだ」とも感じた。そして、彼らのメッセージは「世界最高をお届けしたい」であった。みごとなオンリーワンだ。

「意味付け」とはストーリーとも言えるが、ひとつのブランドを劇的に変化させることも可能だ。ただ、どの意味付けも、実行者の大いなるこだわりと勇気のある決断が必要だ。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の精神でうまく行くほど甘くはない。

ウジェーヌ・ドラクロワの名作「La Liberté guidant le people(民衆を導く自由の女神)」のように、後に続く人たちを導くのは、確固たる自分の意志で先頭を走る者である。

連載:「グッドビジネスは魅力的なアートか?」 ~現代アートとブランドビジネスの相関性
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文=高橋邦忠

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