新聞がデジタル・メディアとして再生することは無理なのか。これは「新聞各社がいまだ戦略的に取り組んでいない」、このひと言に尽きる。デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が流通して久しい現在も、データ分析やデジタル・マーケティング人材を登用せず、DXはほぼ手付かずのままだ。
ヤフーはCPから配信された記事タイトルを、そのままトップに据え置くわけではない。「トピックス」編集者がページに収まるよう、14文字以内のビビッドな見出しに置き換え、ユーザーをクリックへと誘う。
新聞記事の見出しを14文字に刈り込むのは、なかなかの技だ。だが、同社はこの短い見出しを作り出して行く過程で、その文字列のデータを20年以上にわたり蓄積し、それを現在に生かしている。よりトラフィック獲得に有効な見出しの付け方やユーザーが興味を示す旬の関連記事など分析データをCPへフィードバック。これが特に新聞各社が同社への依存度を増す要因へとつながっている。
かつて、MSN毎日インタラクティブにおいても、毎日新聞側で作られた記事見出しから、MSNトップページに掲載するため、MSN側ではデータを収集していた。どの見出しがクリックスルー(CT)を上げるかではなく、どの文字列がCTを上げるかという細かい分析だ。
例えば「田中将大」の文字列よりも「大谷翔平」のほうがCTが1.3倍となる、などのデータがあれば、大谷の記事を優先して掲載する、といった具合だ。こうしたデータ収集と分析は20年近く前から日常的に行われていたが、現在の新聞各社はこれを徹底しているのだろうか。
新聞のデジタル施策に前提として必要なこと
かつて朝日新聞デジタルの現場を覗いたことがあった。当時、前身の「アサヒ・コム」担当はテキストエディタの「秀丸」で記事を編集し、システムへの入稿とLIVEへの配信が完了すると、表示された自社サイトの配信時間を確認。そして、他社サイト上の同様の記事のリリース時刻を確認し「よし!読売オンラインよりも1分早かった!」と一喜一憂していたのを思い出す。
新聞社が報道機関である限り、スクープを発信するなどの重要性はいささかも損なわれることはない。しかし、実際にユーザーの目に触れなければ、そのスクープも宝の持ち腐れだ。
デジタル・メディアにおいては速報性もさることながら、データを的確に解析し、ユーザーの手元へと届ける「デリバリー」も重要なテーマだ。そのデリバリーをヤフーに一任しているようでは、新聞のデジタル施策に未来はない。
データ解析の重要度は、ポータルメディア機能をもつLINEニュース、スマートニュース、ニューズピックスなどの台頭を考えれば明白だ。新聞が怠ってきたデジタル・メディアとしての確固たる戦略と徹底したデータ分析により、新興メディアの存在感はむしろ新聞各社を凌ぐ。デジタル・メディア局の社員が「アトリビューション解析」という言葉も知らず、驚かされることさえあるが、新聞社が復権を図るのであれば、DXを認識し、データ収集とその解析を徹底すべきだ。
まずはその土台を築き上げることで、5G活用などの新たな戦略を上乗せする可能性が見えてくる。
連載:5G×メディア×スポーツの未来
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