期待の新人監督は、なぜ19世紀の小説「若草物語」を映画化したのか


「レディ・バード」でも同じテーマを


監督のグレタ・ガーウィグは、1983年、カリフォルニア州の州都サクラメントの生まれ。もともとは脚本家志望だったが、女優としても活動を始め、「フランシス・ハ」(2012年)や「20センチュリー・ウーマン」(2016年)などに出演、2017年には自身をモデルにした初監督作品「レディー・バード」で批評家の絶賛を浴び、アカデミー賞でも監督賞と脚本賞にノミネートされた。

「レディ・バード」は、心の底では故郷を愛しながらも、家や学校では周囲と衝突、東海岸の大学へと脱出を試みる高校生の主人公を、テンポの良い新鮮なコメディタッチで描いている。主人公は自らを本名ではなく「レディ・バード」と呼び、これまでの自分ではない者になろうともがく。つづめて言えば1人の女性の自立の物語でもある。

フレッシュな感覚を携えて登場したガーウィグ監督が、第2作目として選んだのが19世紀に書かれた小説「若草物語」だった。その選択にやや意外な感じも受けたが、彼女には彼女なりの理由もあった。

「ジョーは、男の名前を持った女の子で、作家になりたくて、野心があって、怒りも持ち合わせている。性別によって決められた人生を超えたいという望みもあり、それはとてもエキサイティングに映る。彼女のそういう面に私は共鳴し、私たちを自由にしてくれる」

ガーウィグは、前作で提示したものと同様の、1人の女性の自立というテーマを今作にも色濃く投影している。


エマ・ワトソンが長女メグ役を演じている

劇中では、印税と著作権に関して、ジョーが編集者の理不尽な要求に対してタフな交渉をするシーンがある。これは、原作にはないガーウィグ監督のオリジナルのエピソードとのことだが、このシーンに象徴されるようなやり取りが、他の場面でも登場し、前々世紀に書かれた「若草物語」に新たな息吹を吹き込んでいる。

ジョー役には、「レディ・バード」でも主人公を演じたシアーシャ・ローナンが起用されている。また、そのジョーと恋人を争う四女のエイミー役は、映画「ミッドサマー」(2020年)で主役を演じたフローレンス・ピュー。この2人がアカデミー賞でもそれぞれ主演女優賞と助演女優賞にノミネートされており、彼女たちのライバルとしての競演も見どころのひとつかもしれない。

ちなみに、物語の語り手である次女のジョーが、最後に書く小説のタイトルも「Little Women」で、丁寧に日本語の字幕では、「若草物語」となっている。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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