ビジネス

2020.06.18

躍進するクラフトビールブランド 過激なマーケティングと斬新な資金調達法

CEOのジェームズ・ワット(写真 = フランコ・ヴォクト)

大手飲料会社が競合を買収してグローバル化を図るなか、英クラフトビールブランドが躍進している。過激なマーケティングと斬新な資金調達手法、“ビールメーカー”らしかぬ経営で、既成概念を打ち破る。


英国発のクラフトビールメーカー「ブリュードッグ」の共同創業者であるジェームズ・ワット(37)は、米オハイオ州の厳しい暑さで汗だくになりながらステージに立ち、4000人の株主を前にとある報告をしていた。
 
米国でブリュードッグ最大のヒット商品となっている「エルビス・ジュース」と名付けられたIPA(インディア・ペール・エール)に対し、法的措置を取るという脅しを受けていたというのだ。エルビス・プレスリーの遺産管理団体の代理人を務める弁護団から、商品に「エルビス」の名前を使い続けるなら、販売された缶、ケース、ボトル、樽の一つひとつに至るまで使用料を要求されたのだ。
 
そこで、ワットと、共同創業者マーティン・ディッキー(37)は、自分たちの名前を「エルビス」と法的に改名するという手段をとった。メールアドレスや運転免許証の名義まで変更し、弁護士たちに手紙を送りつけた。ステージ上のワットは、プレスリーのヒット曲のタイトルをちりばめた文面を読み上げた。

「親愛なる『ビッグ・ボス・マン』。そちらが『サスピシャス・マインド』をお持ちで、我々の新しいビールのせいで『オール・シュック・アップ(心をかき乱されて)』しまったことを心苦しく思います。(中略)我々の『バーニング・ラブ』を強調するため、2人とも『エルビス』に改名しました。ということで、そちらの楽曲すべてで使用されている我々の名前に対し、使用料を支払っていただけますか? 愛をこめて、エルビスより」

スコットランドなまりの心地よい抑揚で手紙を読み上げたワットは、拍手喝采を浴びた。

ブリュードッグは、ワットとディッキーが2007年にスコットランドの北東部で立ち上げ、世界に4つの醸造所と100のバーを展開するまでに成長した。多くの競合が買収されていくなか、上場できるまでは独立していたいと考える彼らは、より利益率の高い事業に目を向けてきた。この2年でホテルを1軒、チャーター航空会社を1社、蒸留酒製造所を1カ所、ドリンクやライフスタイルに関する100時間以上のコンテンツを視聴できるネットフリックスに似た動画配信サービスを1つ立ち上げた。
 
2人の秘密兵器は、ブリュードッグの株をネット上で買ってくれた約12万人に上る“ビールパンク”たちだ。彼らは、ブリュードッグのウェブサイトで「エクイティ・フォー・パンクス(パンクのための株式)」というプログラムを通じて同社株を購入。未公開企業の株式の約22%にあたる総額9500万ドルを出資し、ブリュードッグの事業拡大を助けてきただけでなく、熱烈な信者、熱狂的なファンとして口コミでブリュードッグの評判を広め、商売を盛り立てている。
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編集=森 裕子 翻訳=木村理恵 文=クリスティン・ストラー

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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