ビジネス

2020.06.18 12:00

躍進するクラフトビールブランド 過激なマーケティングと斬新な資金調達法


過激なマーケティングで認知度が急上昇


brewdogの店舗前で「ロバタクシー」を利用する女性
2015年に英ブライトン店が展開した「ロバタクシー」による送迎サービス。ツイッターで同店についてツイートするだけで、利用者が剥製のロバに“乗車”できるサービスだ。

それでも、規模1150億ドルの米ビール市場の売上高成長率は年間わずか約2%。ブリュードッグが成長ペースを維持するのは難しいかもしれない。
 
この問題への対策として、ワットとディッキーは過激で派手なマーケティングに手を染めてきた。12年には、ビール箱1つで隠された部分以外は素っ裸の自分たちの姿をロンドンの国会議事堂に映し出した。18年には、米国での2回目のエクイティ・フォー・パンクスを宣伝するため、ヘリコプターをチャーターしてウォール街上空を飛び、パラシュートを装着した猫の剥製を投下。ウォール街の機関投資家頼みの古臭い資金調達モデルを「“太った猫(=金持ち)” のような銀行家たち」と揶揄した。
 
特殊な場所で醸造する少量バッチのビールも話題になっている。高度約1万2200m上空の飛行機の機内や、メリーランド州デラウェアにあるドーバー・インターナショナル・スピードウェイを時速148kmで走行するフォードF350ピックアップトラックの車内、そしてボストン港に浮かぶ帆船の船内で、ラガービール「サミュエル・アダムス」を生み出したビリオネアのジム・クックと一緒に。

ブリュードッグの他の事業の初期の業績も頼もしい。オハイオにオープンしたホテル「ドッグハウス」では、アメニティとしてシャワー室にビールの入った冷蔵庫を置き、客室に生ビールが飲めるタップが設置されている。稼働率は常に約82%だとワットは言う。同ホテルは19年に米誌「タイム」選定「世界で最も素晴らしい場所100選」に選ばれている。前出のビール動画配信サービスのほうは利用者が増えなかったが、12月に無料化したところ500万人を超える視聴者を獲得している。
 
多くの領域に手を広げるあまり、中核事業であるビールから目を離してしまわないよう警告する声もある。だがワットは、否定的な声に耳を貸す気はまったくない。ビール業界の大手とは異なり、大胆な行動に出ることも辞さないと言う。

「誰がどう思おうと、どうでもいい。スコットランド北東部出身の2人のガキが、何もないところから始めたのがブリュードッグ。思ったことははっきり口にするし、信念のために戦う。僕らのことを好きな人もいれば、好きではない人もいるけれど、それで全然構わないよ」


ジェームズ・ワット◎英スコットランド北東部フレイザーバラで育つ。大学卒業後、漁師を経て、07年に幼友達のマーティン・ディッキーとブリュードッグを創業した。現在は、“キャプテン(船長)”として同社を牽引。創造性豊かなアイデアで経営とマーケティングを展開する。

編集=森 裕子 翻訳=木村理恵 文=クリスティン・ストラー

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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