銀行からのさらなる借り入れと、ワットが漁で稼いだ収入を元手に、ブリュードッグは軌道に乗り始めた。11年になると、ワットが漁の仕事を辞められるほど醸造業は安定。数カ月後には、フォーブスU.S.が各業界の優れた30歳以下の人物30人を表彰する「30 UNDER 30」に2人は選出された。
ワット(右)とディッキー(左)
間もなく、需要はワットとディッキーの手に負えない規模になり、資金調達の選択肢も尽きた。そして09年、彼らが考え出した資金調達モデルが前出の「エクイティ・フォー・パンクス」だ。上場企業と同じ規制と承認のプロセスを経た後、ブリュードッグは法的に自社の醸造所のためのクラウドファンディングを実施できるようになった。株主たちは同社の一部を所有し、ブリュードッグのバーで生涯にわたり10%の割引を受けられたり、毎月ビールが届くビールクラブの会員権を付与されたりする権利を得た。
最初の調達ラウンドで、ブリュードッグは約1330人の投資家から97万5000ドルを調達した。現在、6回目の調達ラウンドが行われているが、最も成功したのは18年初頭のラウンドで、7万人の投資家から3400万ドルを調達することができた。
初期の出資者たちの投資はうまくいっている。テネシー州ナッシュビルの看護師、ダニエル・フェッターは、10年にエクイティ・フォー・パンクスの最初の調達ラウンドで1万ドルを投資した。現在、この投資は約10万ドル相当になっており、リターンは900%超(同じ期間のS&P500のリターンは約185%)。とはいえ、出資する“パンク”の数が多くなれば株式が希薄化し、新たな投資家が大きな利益を得ることは難しくなっていくだろう。
17年4月、ブリュードッグは初めてベンチャー投資家から出資を受けた。サンフランシスコのTSGコンシューマー・パートナーズが同社に2億6400万ドルを出資し、22.7%の株式を取得したのだ。このとき、“パンク”たちにも持ち株を売却するチャンスがあったが、売却したパンクはわずか2%だったとワットは言う。
データ会社「ビバレッジ・マーケティング・コーポレーション」のコンサルタント、ネイサン・グリーンは、米国でのブリュードッグの成長を「破竹の勢い」と評する。17年には1万バレルだった生産量は18年には3倍になり、19年にはさらに2倍になる見込みだ。そうなればブリュードッグは生産量でトップ50に入る地ビール醸造者になるとグリーンは語る。
「ブリュードッグの急成長にクラウドファンディングモデルが大きく関係しているのは確かだと思います」