危機感がないと淘汰される 三ツ星シェフが業界に送るメッセージ

HAJIMEの米田 肇シェフ


『雇用が守られたスタッフのみんなへ』(5月22日)

お店が潰れることなく、雇用が守られた人は自粛が解かれ、また仕事が再スタートになると思います。仕事場に入れば、いつもの日常が待っているいることでしょう。しかし、それを当たり前だと思わないでください。

こんな時だからこそ、「仕事があるということ」「雇用が守られたということ」を再度考えてみてください。

例えば、HAJIMEは自主休業を4月8日から5月20日までしていました。その間のスタッフは、自粛というストレスもあったでしょうが、給与も100%支払ったのでその心配はなく、これまでの勤務から解放されてゆったりとした半分バカンスの様な1カ月半だったことは再会をしたときに顔を見ればわかりました。
(中略)
給与がきちんと出ていて、生活が安定していると、再スタートは当たり前のように感じている人もいるように感じました。しかし、私がこの2カ月間色々と動いて、見て聞いてきたもの、そして、入ってきている実態は悲惨な状況です。4月22日に集めた情報では、飲食業だけで統計的には約1万店舗は廃業している計算です。最低でも1店舗に3名関わっているとなると、3万人は失業をしているわけです。実際はもっとだと感じます。
(中略)
だからこそ、給与をきちんと払ってくれた経営者の元で働いている料理人の人、サービススタッフの人。あなたが働いている所の経営者は大変なストレスの中で雇用を守ってくれたということをきちんと知ってあげて欲しいと思います。

経営者として雇用を守ること、私はこれは当然の行為だと思っています。だから、経営者がえらそうになったり、スタッフが感謝するべきとは言いません。しかし、今回起こっている経済的な影響は非常に困難な状況で、それに対峙している経営者は誰であっても神経をすり減らす中を必死に生きてきています。

なので、雇用が守られた人は、この事実を知ることは最低の礼儀として、今後の仕事に取り組むべきだと私は考えます。そして、「仕事があるということ」「雇用が守られたということ」をよく考えて欲しい。そして、仕事の本質を、働くということを今一度再確認して欲しいと思うのです。

今後、失業者が増えていきます。今までの求人倍率が逆転し、必ず少ない雇用枠を取り合う競争が起こります。すでにHAJIMEにも多くの履歴書が届き始めているのが物語っています。そんな競争が始まる中で、ゆるい考えを持ち、危機感を持たずにいると淘汰されるかもしれないということなのです。

すべてをネガティブに考える必要はありません。人生はポジティブに考え、常に挑戦していくことが大切です。ただ、危機感をきちんと持つことは必要とされます。実態をきちんと認識しながら、そして果敢に生きていくことそれがこれから問われてくると思います。これから再スタートに際して、これらのことをきちんと考えてからスタートしても損はないと思います。頑張っていきましょう! コロナと戦いながら。

米田肇シェフ

この文面には、料理業界に携わるすべての人を思いやる温かな気持ちが溢れている。そして業界全体としてステップアップしていこうという決意が感じられる。何より大切なことは、思い立ったら行動に移すこと。思うところまでは誰でもできる。そこから一歩踏み出すことがどれだけ難しく、また必要であるかということだ。

かつて、一料理人が、これだけ、飲食業界全体のことを慮ったことがあっただろうか。

ここからは、私たちの出番だ。なじみの店に、もう一度食べたいと思っている店に足を向けてみよう。たくさんの一歩が集まれば、飲食業界の助けにきっとなるに違いない。

文=小松宏子

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