巨人と対峙するときがきた
この世界には、あまりに多くの「巨人」が眠る。日本に住む私たちのすぐそばにも、対峙すべき巨人はたくさん埋もれている。
イシグロは、ノーベル文学賞受賞のスピーチで「人種差別がふたたび勢いを盛り返す気配です。いま、埋もれていたモンスターのように、文明社会の大通りの下でうごめきはじめています」と語った。
差別や人権侵害の問題は、どんな共同体であっても他人事ではない。
さらに『忘れられた巨人』作中では、なくした記憶を取り戻す是非が問われる。
すべての記憶が戻れば、いい思い出だけでなく、悪い思い出もよみがえり、それが人々の関係を壊すかもしれない、と。
しかし私たちは共同体として可能な限りすべての記憶を取り戻し、歴史を知り、埋もれた巨人を叩き起こして対峙しなければならない。世界中が、特に若い世代が、その機運になってきている。
前出のジョーンズは、「BlackLivesMatter」は「社会現象だから拳銃で止めることはできない。そこに希望がある」と、力強く言った。
そして歴史を学び、現象を見聞きし、思考を巡らせることが、その希望をさらに裏付ける。文学や映像作品などがその一助となるのは間違いない。
引用:
『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ、土屋 政雄 (翻訳)、早川書房 (2015年5月1日)
『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー: ノーベル文学賞受賞記念講演 』カズオ・イシグロ、土屋 政雄 (翻訳)、早川書房(2018年2月6日)
『13th -憲法修正第13条-』エイヴァ・デュヴァーネイ、2016年