そこで、私が提案しているのが、10万円給付金の投資的な活用である。日本で資産1億円なり年収2000万円なりを超える人は概ね200万人程度だろう。彼らにとって10万円は不要不急ではないか。総額では2000億円になる。これを感染症研究対策ファンドとして出資するのである。投資期間は「永久」だ。
投資だが元本の10万円は放棄する。果実は研究成果の事業化に伴う収益分配でもよし、新薬の優先的割り当てでもよい。永久劣後債と購入型クラウドファンディングを合わせたようなイメージだ。単なる寄付ではないので投資のインセンティブになるし、投資される側の緊張感も維持できるのではないか。
受益者は主に私たちの子孫だろう。給付金の原資は国債で調達されるのだし、将来その返済に当たる世代が投資の真の成果を得るのが筋だ。放っておいたら散費されかねない国費を、特別会計にして活用するのと同義でもある。
ともあれ、忘れたころにやってくる災厄には長い備えが不可欠だ。スペイン・インフルエンザが猖獗を極めたころ、米国の子どもの間で流行った歌がある。
I had a little bird and its name was Enza. I opened the window and in-flew-Enza.
窓からいつ何が飛び込んでくるかは、誰にもわからない。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。日本証券業協会特別顧問、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。