コロナ憎んで人を憎まず。音楽と笑顔は世界を救う

「Let’s make the most of it!」と言い笑う英国人乗客

ロンドンを拠点に音楽活動を始めてもうすぐ四半世紀だが、2020年の春は47年の自分の人生の中で、おそらく最もドラマティックな2カ月だった。

2月下旬、ピアノリサイタルの仕事で乗船したクルーズ船内で新型コロナウイルス感染者が発生したため、各国から上陸を拒否され、中南米、カリブ海、バハマ、米フロリダ周辺を3週間あまり漂流。最終的に下船したキューバで港から空港まで物々しく護送され、英政府のチャーター機でロンドンへ帰還した。

そのまま2週間の自己隔離期間に突入。しかしそれが終わるやいなや、今度は心筋梗塞で緊急入院。手術直後に1回だけ38度を超える熱が出ると、すぐさまコロナ感染専門病棟へ隔離され、3日間を過ごした。幸い陽性反応はでなかった。

退院後は至って元気で、縁あって自然豊かな田園に建つヘンリー8世やエリザベス1世が愛した16世紀の古城に幽閉(自己隔離)し、これを書いている。さて、これから3回に分けて、新型コロナ感染クルーズ船での体験、また、そこから得たものについて綴りたいと思う。



まだ「対岸の火事」だった頃


クルーズの醍醐味といえば、何といっても「動くホテル」としての利便性であろう。荷造りや移動、出入国手続きの煩わしさもなく、毎朝、未知の国やエキゾチックな島で目を覚ますことができる。また、船内には各種エンターテイメントが揃っている。一日置きにブラックタイ(正装)の日もあり、年配の英国人たちにとって「社交」も楽しみの一つだ。

私が乗船した「ブレイマー号」は、3カ月おきに英国サザンプトン港を出発し、世界各地を周遊して戻ってくる。冬から春にかけては、暗くて寒い英国を逃れ、暖かく太陽いっぱいのカリブ海や中南米を周遊する。2週間ごとに各地で約600人の乗客が入れ替わるが、およそ100人は4週間〜3カ月間、任意に乗り降りしてクルーズを楽しむ。中には一年中乗船し、世界を何周もする優雅な未亡人もいる。



2月27日、私はブレイマー号内にある大劇場で3回のピアノリサイタルを行うため、ロンドンから乗船地であるドミニカ共和国へ飛んだ。しかし、風邪やインフルエンザ様の症状の乗員乗客が8名いたため、船はドミニカ共和国から入港を拒否された。

そのまま高齢の乗客予定者ら約600人とともにプライベート・ビーチもある5つ星のリゾートホテルで3日間待機し、3月1日、入港許可の出たオランダ自治領セント・マーティン島へ飛び、3月2日未明にようやく乗船することができた。
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文・写真=平井元喜

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