そのため患者さんやその家族とのコミュニケーションをとても大切にしており、安田さんをはじめ食の意思決定を支援するチームが考案したツール「いーとかーど」では、自分が「食」に対して最期まで何を大切にしたいか、お互いの価値観を共有することができる。
「食べられなくなったら経管栄養をする」「『食べたくない』を選択させてほしい」「最期まで口から食べたい」など様々な選択肢が書かれたカードを1枚ずつめくり、自分が捨てたくないカードを5枚だけ手元に残す。そうして最後まで残った5枚が、自分の「食」に対する強い意思だと気づけるようになっている。
必ずしも、食べるだけが目的でない「食」とは
その中に「自分が食べられなくても誰かに作ってあげたい」というカードがある。ある末期癌の一人暮らしの女性は退院して自宅に戻った後、どんどん食が細くなっていった。みんなと一緒なら食べられるかもしれないと、医師が「かがやき」のオフィスにあるオープンキッチンでのランチに誘った。安田さんが「一緒に作りませんか?」と声をかけたところ、「実は私、本当は料理が好きなんです」と喜んだという。彼女はすでにキッチンには立てなかったが、職員たちのために楽しそうにメニューを作った。その時はいつもより顔色が良く、食欲もあったと安田さんはふりかえる。
その女性にとって、最期までより良く生きるための「食」は、「誰かのために」「誰かと一緒に」が大事な意思だったのだろう。
「食は、生きるための栄養補給としての役割だけでなく、人生を豊かにする喜び・楽しみ、さらに家族や友人、地域など人と人とをつなぐものでもある。」
人は全て、突然死以外は、最後は食べることができなくなって亡くなっていくという。今、家で看取られる人の割合はまだ15%ほどだが、医療保険財政の逼迫もトリガーとなって、今後在宅医療はもっと広く普及していくだろう。
どこで死にたいかというよりも、死を迎えるその瞬間まで「どこで、どう生きていたいのか」という「あり方の選択」ができるようになったのだ。そうなれば、「食」を中心に据えた「かがやき」のようなチーム医療の役割が、間違いなく重要になってくると思う。
どう「食」と向き合えば、人生の物語を自分なりにハッピーエンドに締めくくることができるのか。親のこと、自分のこと。まだお互い元気なうちに、よく考え、共有しておきたいと思った。
人生を最期までかがやかせたいとき、誰と、どこで、どのように、「食」と向き合っていきたいですか?
連載:それ、「食」で解決できます!
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