シニアに効果的な訴求方法とは
高橋:プロモーション戦略で苦労している企業も多いと感じます。「シニア向け商品」という打ち出し方では、シニアの人は買ってくれませんから。
角尾:まだ元気で活動的なシニアには、「今後、身体が動かなくなるので、予防のために介護体操をしましょう」ではなく、例えば「シニアヨガをしませんか」と呼びかけたほうが楽しめるし、尊厳が守られ、受け入れられやすいはずです。
滝口:シニアに対して「日常の負の部分を克服します」という伝え方ではなく、普段の生活シーンの中でどうメリットがあるかを訴求することが大事です。とはいえ、シニア市場とは縁の薄かった企業では、シニアのニーズを把握することは容易ではありません。このことについて私の論文では、ニーズマップを作成する手法を紹介していますが、「このような状態の人にはどのような生活シーンが合うのか」などと考えながら、シニア像を描いてみることをお勧めしたいと思います。
下松:私が取り上げた介護予防の領域では、法制度が見直されたり、新たな政策が打ち出されたりと、民間のビジネスチャンスは急速に拡大しています。そうした制度・政策に関する情報を把握しつつ、それらを上手く活用してシニア市場に参入することも重要だと思います。
「キーワード」を活用したマーケティングの可能性
下松:介護予防の観点では、要介護になると健康な状態に戻すのが難しいのですが、その手前の虚弱状態である「フレイル」の段階であれば、適切な介入をすることで健康な状態に戻したり、要介護ではない状態を維持したりできます。フレイルは身体的な衰えのみならず、社会的な参加が少なくなることも要因の一つです。例えば美容の分野では、外見を気にかけなくなったところから「フレイル」が始まります。そこに着目すると、おしゃれをしてもっと外出したくなるよう促すメイクセラピーなど、少し違った切り口の新サービスが考えられるようになります。
高橋:食品などでも、漠然と「健康に良い」と訴求するよりも、「フレイル状態の高齢者に効果がある」とセグメントを明確にするほうが、マーケティング活動がしやすくなります。「フレイル」というセグメントを抽出することで、これまで介護領域で成果を挙げられなかった企業でも、成果を挙げやすくなるということも考えられます。
NRI 角尾怜美
角尾:身体的にも、精神的にも、また社会的にも健康であることを意味する「ウェルネス」も注目のキーワードです。「ウェルネス」は、多くの場合、ビジネスパーソンやミレニアル世代など、新しいものへの感度が高い人が対象とされていますが、これにシニア市場を含めることも可能と考えます。例えば、ビーガン(完全菜食主義)思想の拡大や環境問題に対する配慮等から、植物を使った代替肉や代替マヨネーズなどが登場していますが、これは糖尿病等で食事制限のあるシニアでも安心しておいしく食べられます。
滝口:「ウェルネス」は働き方改革の一環として使いたいキーワードですし、今後10~20年で拡大する市場だと思います。シニアにもうまく展開できる余地があります。