ビジネス

2020.06.05

いろいろ難しい世代「シニア」の市場に、掛け算のアプローチを

野村総合研究所(NRI)の滝口麻衣子、角尾怜美、高橋麻理恵、下松未季


世代ごとの価値観や変化を捉えて、長期的な戦略を立てる


高橋:従来のシニア戦略の対象は60歳以上、もしくは65歳以上でしたが、その入り口となる50代のプレシニアも含めて、長期的な視点でシニア戦略を立てることをお勧めしたいです。「NRI生活者1万人アンケート調査」の結果などを使って、時系列で分析すると、そのヒントが得られます。例えば、今回の調査で50代はブランド志向が高いことがわかりましたが、ブランディングには最低でも10年ほどはかかります。10年先を見据えて、従来のシニア戦略を見直してみることも有効だと思います。

NRI 高橋麻里恵
NRI 高橋麻里恵

また現在では、シニア層のICTツールへの親しみ度合いも変わってきました。例えばある食品メーカーでは、スマホのアプリを活用することで、自社製品の利用実態や効果をより高い精度で捉えられるようになっており、それをシニア層向けのマーケティング活動にも反映させようと考えています。
今後も、独自の調査研究成果をはじめ、様々なデータを最大限に活用し、リサーチに基づくコンサルティングを追求し、お客さまの実情を踏まえたソリューションを提供していきたいです。
50歳代の消費意識の変化のグラフ


身体×精神×社会の掛け合わせでアプローチする


角尾:シニア向けフィットネスクラブにおいて、シニアが求めているのは運動すること以上に、ジムで友達に会って話をすることだと言われています。

このように、単一手法機能の提供により一つの価値を実現するのではなく、複数の手法機能の掛け算により、身体的、精神的、社会的健康を組み合わせたより大きな顧客価値を提供するビジネスモデルは今後増えていくはずです。私自身も「ウェルネス」を切り口に、そうした新しいビジネスモデルづくりを支援していきたいと思います。今回は、この「ウェルネス」について論文を書かせていただきましたが、今後も、一歩先行くコンセプトを私なりに理解・整理しつつ、NRIの情報発信力を活かしてさまざまな方法でお客さまに発信していきたいです。

自社技術や内製にこだわらず、異業種企業と協業する


滝口:これまでヘルスケア分野とは縁遠かった業界の場合、「高齢者向けサービスを考えよう」と企画案が出ても、途中で立ち消えになり、その先に進まないケースが多く見られます。その原因としては、先ほど申し上げたニーズ把握の問題に加え、自分たちが保有する技術を何とか使えないかと、内製にこだわる傾向があることが挙げられます。

脱内製化に関してお勧めしたいのが、自社にないナレッジやデータを持っているベンチャー企業など他社と積極的に会話し、協業をすることです。異業種企業の持つデータを用いて、シニアに好評な商品やサービスについて議論することで、シニア層をどのくらい細かく分解すべきかが把握でき、新たなサービスのアイデアや協業先を見つけるきっかけになります。

NRI 滝口麻衣子
NRI 滝口麻衣子

NRIとしても、さまざまな業界に関する知見やネットワークを活かして、お客様ニーズに合ったソリューションを提供していきたいと考えています。例えば、新規事業を実現・継続させるようなプロジェクトチームの組成や、キーパーソンを巻き込んだ社外連携や協業の実現をご支援できればと思っています。

官民が連携し、掛け算で活動やサービスの幅を広げる


下松:協業という観点では、介護分野でも、技術を持つプレイヤー、場を提供するプレイヤー、仕組みを持つプレイヤーがバラバラであったことが課題です。しかし、もはや単体で勝負できる時代ではなく、どれだけ掛け算して、シニアの身近なところで必要なサービスを提供できるかが問われています。

例えば、ショッピングモールに場を提供してもらい、歩き回ってポイントをためるようなイベントを仕掛ければ、シニアはポイントをお小遣いの足しにしつつ買い物を楽しみながら健康増進を実現できますし、モール側も集客効果が見込めます。また、複数のプレイヤーが連携・協業しながら、これまで取れていなかったデータを収集し活用することで、シニアの実態にもっと迫れるはずです。

加えて、介護の分野では、官民連携が非常に重要です。国や市町村が行っている介護予防の動きと合わせて、民間企業が持つそれぞれのサービスや強みを融合させると、活動やサービスの幅が広がります。私自身、官と民の両方を支援しているNRIならではの知見やネットワークを活かしながら、その橋渡しをしていければと思っています。

(この記事はNRIジャーナルからの転載です)

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