『NRI Management Review』42号で、各自の専門性や経験を活かして、シニア市場におけるビジネス展開について論じた野村総合研究所(NRI)の高橋麻理恵、下松未季、滝口麻衣子、角尾怜美が集まり、企業が苦戦する背景や必要な視点について話し合いました。
なぜシニア市場は捉えにくいのか
滝口:これまでシニア層をターゲットとしてこなかった企業は、高齢者を一括りにする考え方でしか市場を見られないケースが多いと感じます。しかし健康状態ひとつをとっても、同じシニアでも人によりさまざまです。もう少し細かく見ないと実態がつかめません。例えば、年代を10年ずつで区切ってみるだけでも、それぞれのシニア像の特徴はだいぶ異なります。
下松:これまで分解能が低かった背景として、シニアについて、消費活動を引っ張る主力ではなく、「一線を退いた層」「身体の衰えが顕著になる層」といったネガティブな捉え方をしていたことがあると思います。そこを深く追及するのはタブー視されていたのです。それから、介護保険制度など規制の影響も考えられます。介護保険点数を取得することやルールに合わせることが第一目標となり、高齢者のニーズの検討がおざなりになりがちでした。
NRI 下松未季
角尾:昔のシニアは、時間とお金に余裕がある人が多かったかもしれませんが、今は定年が伸びて、自由な時間は意外にないのかもしれません。同じ60歳、65歳でも、仕事をしているかどうかで日常生活は違うので、それぞれに合った商品やサービスを提案する必要があります。年代だけでなく、その人がアクティブかどうかもひとつの視点になります。
高橋:同じ年代でも、世代ごとに違いがあることも注目したい点です。例えばNRIが1997年から定期的に実施している「NRI生活者1万人アンケート調査」から見えてくるのは、10年前の50代(現在の60代)と比べて、現在の50代(プレシニア)はバブル世代だったので、ブランド志向が強いことです。男性の場合、住宅ローンの完済比率が前の世代に比べ低くなっており、自由に使えるお金が少ないため、熱心に情報収集をしながら消費を楽しんでいます。この層をターゲットとする場合、情報発信をしてブランド力を向上させる必要がありますが、訴求に使うツールにも留意が必要です。上の世代にはテレビ広告が有効でも、現在のプレシニアはスマートフォンで口コミサイトやSNSをよく活用しています。