前回は、起業のきっかけやビジネスモデルについて掘り下げたが、今回は、企業経営の肝である、資金調達や資金繰りにフォーカスする。
元榮太一郎(以下、元榮):この10年間ほどは、起業家にとっては、まさに奇跡的と言ってもいい恵まれた時代でしたね。
重松大輔(以下、重松):まさに、そうだったと思います。
元榮:毎年、奇跡的に「良い環境」のレベルが上がっていって、2005年に創業した僕のときも「良い環境」と言われていたのに、それ以上に良くなっていきましたものね。
僕が弁護士ドットコムを創業した2005年当時、バリュエーション(企業価値)で10億円以上付けてもらえるということは、それだけで注目が集まる出来事だったし、1億円の資金調達はそれだけで大きなニュースになった時代でした。
重松:最近では1億円の資金調達くらいでは、ニュースにならなくなりましたね。
元榮:未上場の企業でも、企業価値が数百億円レベルと評価され、数十億円を調達するのは当たり前になりました。
羽振りの良い人たちを真似るな
重松:しかし、このあとの資金調達はシビアになる、というより元に戻る、真っ当になるのではないかと思うんです。
元榮:これから起業しようという人たちに気をつけてほしいのは、今から起業する人たちにとっての身近な先輩世代はバブル起業世代ですから、少しお金の使い方が荒いように思うんです。
わずか数年前に起業した会社が、資金調達したお金を使って、事業は赤字にもかかわらず豪華なフラッグシップビルに入っていたりする。
こうした資金は、血と汗と涙の結晶でつくったお金、つまり利益をコツコツ積み重ねて生み出したお金ではないので、ゆるく使ってしまう傾向があるように感じます。こうした経営体質を真似してしまうと、これから厳しい時代が来たときに、恒常的にベースが上がってしまっている固定費が経営を圧迫することになりますから、気をつけたほうがいいと思います。
さらに付け加えるなら、いままでは環境が良かったから、資本政策をそこまで気にしなくても上場まで持っていけましたが、何かの出来事で上場までの時間が長くなったりしたときに、無用な経営権争いや株主とのトラブルが発生してしまうことも考えられますね。
重松:ひと世代前の羽振りの良い人たちを、そのままモデルにしないということですかね。
元榮:メリハリをつけたハイブリッド型が良いと思います。昔のように、誰もお金を出してくれなくて銀行から借りるしかないという時代とは違いますが、たとえば景気が良いときと悪いとき、それぞれの時代によって考え方や資金に対する接し方は違うということです。
攻めるときは攻めつつ、守るべきところは堅く守る。この併用をバランスよく取り組むことが、大事だと考えています。
重松:家賃も高騰していますからね。潤沢な資金のあるスタートアップ企業が高い家賃で借りるので、オフィステナントの賃料全体が上がってしまうんです。また、広いオフィスに移ったり社員が増えてきたりすると、成功した気になるんですよね、不思議と(笑)。ただ、本質は事業を磨くことだと思うんです。うちは上場した後も、まだSOHOオフィスですから。