エリックのInnovation and beyond

医療従事者を音楽で応援するイベントを企画したレディー・ガガ 写真:Christopher Jue/Getty Images

世界中が総力をあげて新型コロナウイルスへの闘いを挑むなか、日本では、ある種独特なマイナスの雰囲気が漂っているのを感じます。新型コロナ禍によって、本当に支援を必要としている人や、本来尊敬されるべき医療従事者などには手を差し伸べず、あってはならない誹謗中傷がSNSやインターネットで流れ、嫌がらせまで起きています。

誰もが発言者となり得る時代において、日本では誰もが承認欲求を満たしたがるようになったことで、大きな勘違いが起こっていると感じています。思想家・吉本隆明氏が提唱した「共同幻想論」から言葉を借りるなら、自己幻想が肥大した人は自分の満足のための投稿をネットで繰り返し、対幻想に依存している人はLINEに既読がつくタイミングを気にし、共同幻想に取り込まれた人は叩ける相手を集団で潰すことで自分はマジョリティの側だと安心していると言えます。

このような利己的な承認欲求は、安らぎではなく不安感を増強し、ネガティブになり、クリエイティブな発想はなくなります。

いまの日本に足りないものは、ずばり「共感力」です。ネットから溢れる個人の怒りの感情に任せた否定的な情報に惑わされるのではなく、いかなる情報からもプラスの成長をもたらす思考を生み出していくことが重要なのです。

アートが持つ癒しの力


日本とは異なり、新型コロナウイルスと最前線で闘っている人々をヒーローとする国々では、尊敬や共感から生まれる見えないパワーが、このパンデミックの後にやって来る、新しい社会に対しての前向きな思考を生み出しています。

ドイツ政府は、文化機関や文化施設を維持し、芸術や文化から生計を立てる人々の存在を確保することが政治的にも最優先事項であるとしました。そして、アーティストは国民にとって必要不可欠な存在であるだけでなく、生命維持に必要であると、大規模支援を実施したのです。

新型コロナウイルスが猛威を奮う、いまのように生死が脅かされているなかでの、アートの役割とは何なのでしょうか。ウイルスを駆逐することもできないし、不足した食糧の代替になるわけでもありません。本来であれば、自分が死ぬかもしれないときにアートを楽しむ余裕などないでしょう。

しかし、逆にこういうときだからこそ、アーティストが表明するアートへの姿勢は、我々にとって重要なヒントとなります。

坂本龍一は、「音楽とは、いつも寄り添い一緒にいる存在だ」と言っています。レディー・ガガは、新型コロナウイルスと闘う医療従事者を応援するイベント“ワン・ワールド:トゥギャザー・アット・ホーム”を企画し、多くのミュージシャンに声をかけ、素晴らしい音楽を世界に発信しました。ガガは、アーティストの使命は「人々が明るくなるような愛のかたちを、芸術を通して提供すること」だと言っています。世界は、皆が平等であり、愛に溢れるべきだと訴えているのです。

文=松永エリック・匡史 構成=細田知美

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