ビジネス

2020.03.04

高すぎるバリュエーションで資金調達するのはなぜ危険なのか

※記事は2019年11月に掲載したものを転載しております。

スタートアップが高いバリュエーションで資金調達することには分かりやすいメリットがあります。より多くの金額を調達しつつも、株式の希薄化を抑えることができるので、自社の所有株式を多く保つことができます。一方、できるだけ高いバリュエーションでの調達を目指すことにはデメリットもあります。

それについて話す前に、あらかじめ明示しておきたいことがあります。VCである私が、このテーマについて中立的に語ることはやはり難しいです。当たり前ですが、最初にスタートアップに出資する際、バリュエーションが低いほうが私にとっては望ましいです。

一方、シード投資家である私たちは多くの場合、最も早いラウンドで投資し、その後いくつものラウンドを見届けることになります。この際には株主として、会社がより高いバリュエーションで調達できるように支援するというインセンティブが働きます。つまり、私の考えにはバイアスがかかっているかもしれませんが、少なくとも、株式の希薄化を抑えたいという方の立場から語ることはできます。

前置きはこのくらいにして、高すぎるバリュエーションで調達することのデメリットを紹介しましょう。

次のラウンドの調達が難しくなるかもしれない


スタートアップの理想は、会社にまつわる全てのことが右肩上がりになることです。顧客の数や採用が増えれば、調達額も増えていきます。しかしもちろん、これらが常に右肩上がりになることは稀です。スタートアップ界における「ハード・シングス」はどの会社にも起こり得るのです。

スタートアップのバリュエーションは、その会社が到達し、超えていくであろうベンチマークを示唆します。高いバリュエーションで調達すると、次のラウンドの投資家には、会社の成長を保つため、さらに高い評価額で投資することが求められます。もし全てが上手くいき、次のラウンドの投資家が以前のバリュエーションを基に設定したマイルストーンを達成するか、上回ることができれば、何も心配することはないでしょう。

しかし、自分たちではどうしようもない事態が起きる可能性もあることを忘れてはいけません。投資家の期待をすべて大幅に上回ったとしても、市場全体が不況に転じ、資金が引き上げられてしまうかもしれません。現在の資金余りの状況においては想像し難いことかもしれませんが、これは過去に何度も起きたことであり、いずれいつかは必ず起きるでしょう。

物事はなかなか思い通りに進みません。これこそが、高すぎるバリュエーションにおけるリスクです。新しい投資家が、前回と同じ評価額で投資するか(フラットラウンド)、またはさらに低い評価額で投資する(ダウンラウンド)こともあり得るのです。

一部のケースでは、フラットラウンドやダウンラウンドを要求しにくいため、投資すること自体を避けてしまうこともあります。多くの投資家は、より高いバリュエーションで調達できないことが、マイナスのシグナリング効果を生むリスクを理解しているのです。これについては、この後に説明します。
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