冷静な判断ができるのは資金があってこそ
重松:そういった経験で鍛えられることってありますよね。僕たちも起業して、最初の資金調達まで、8カ月ですけど、無給で働いていたんです。しかし、デザイナーさんなど外注先への支払いもあって、資金がみるみる減っていく。
元榮:500万円は一瞬でなくなるけど、1000万円も一瞬ですね。
重松:そう一瞬でなくなるので、資金調達を必死でやって、なんとか1億円確保しました。その資金で2年間ほどはやっていけたのですが、そこからまた苦しい。
プロダクトの伸びって少しずつ大きくなるもので、とにかく時間がかかるんですよ。
僕らのサービスの場合、スペースを借りたい人とスペースを貸したい人、この両サイドを増やさないといけないのですが、ここに時間がかかって、(投資ラウンド)シリーズB、2回目のファイナンスには苦戦したんです。
プロダクトも順調に伸びてはいたのですが、想定には届かない。半年くらい資金調達に駆けずり回って、いよいよ来月資金が切れるというところまで追い込まれて、ギリギリ首の皮1枚で4億円調達して、なんとか乗り切りました。
スペースマーケット 重松大輔氏
元榮:上場までに調達した金額は5億円ですか?
重松:ほかに約7億円調達しているので、合わせて約12億円ですね。その7億円については、テレビへの投資で1〜2億円使った程度でほとんど使っていないんですが、シリーズBが本当にうちの会社の正念場でしたね。すでに社員も20人くらいいて、「この人たちにも家族がいる」と考えると辛かったです。社員からもやはり辛そうに見えていたようです(笑)。
元榮:金策は本当に辛い。だから絶対に、お金は貯めておかないとダメですよ。もう本当に。
松下幸之助さんの提唱するダム経営ではありませんけど、貧すれば鈍するというのは本当ですからね。資金があれば冷静な判断ができる。
重松:そこは本当に大事ですね。資金調達も余裕があるときや、集められるときにやっておく。当然、交渉が重要なので、良い条件で進めるのも大事なことですけどね。
これはIPO(株式公開)も同じだと思っていて、「もうやるんですか」という声が結構あったんですけど、何があるかわかりませんでしたから。
元榮:結果、正解でしたよね。
重松:本当に何があるかわかりません、災害だったり天災だったり、まさに今回のような新型コロナウイルス感染症の影響だったり。利益計画も、ひと月でもズレるとやり直しです。いくら自社で頑張っても、外部要因はどうにもならないこともありますから。
元榮:スペースマーケットは申請期黒字ですか?
重松:はい、今期も利益を2億円出すという計画を組んで順調に進んでいます。
元榮:来期以降も楽しみですね。
(「第3回」に続く)
重松大輔(しげまつ・だいすけ)◎ 1976年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、2000年にNTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーションなどを担当。2006年、株式会社フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。2013年7月に同社で東証マザーズ上場を経験する。2014年1月、株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。
スペースマーケット◎ 貸し会議室から球場までレンタルスペースを簡単に貸し借りできるサービス「スペースマーケット」を運営。2014年1月、重松大輔と鈴木真一郎によって創業された。