さて、モデルXで一番話題になっている特徴はなんと言っても、翼っぽいドア。テスラがこのドアを「ガルウィング」ではなく、「ファルコンウィング」(鷹)と呼ぶのは、ヒンジ(関節)が2つ付いているからだという。6秒ぐらいで開くこのドアは賛否両論だけど、僕は素晴らしい特徴だと思う。
そのメカニズムは複雑だったようで、開発には予定よりも半年も長くかかり、同車の導入も同様に遅れた。このドアについては「開閉が遅い」とか、「格好つけすぎだ」とかという人もいるけど、僕はあまりにも優れていると思うので、普通のドアが付いているモデルXは考えられない。このドアを含め珍しい機能満載のモデルXは、デロリアンのように伝説的なクルマになっていくと思っている。
室内は、スタンレー・キューブリック監督の「2001年、宇宙の旅」に現れるコクピットみたいだ。トリムの質感やレザーは上品だし、スイッチ類のないスパルタンな割には、ハイテクなできが見事。運転席から周りを見渡すと、リアのウィンドー以外は視認性がとても良く、キャビンの開放感はクラストップといえる。
やはり、何よりもドライバーの頭の上まで伸びるウィンドースクリーンが際立っている。まるで、ドライバーのためのサンルーフみたいだ。運転していると、普段は頭上を見上げることはできないが、僕は今回、運転席から初めて星空や流れ星を見た。ただ、真夏の炎天下では、その広いガラス面のスモークの濃さが足りないので、かなり眩しいとは思う。
医療用フィルター採用の「対生物兵器モード」
インパネの最大の特徴である17インチ大型タッチスクリーンは見ものだ。この1枚で、エアコン、GPSナビ、オーディオ、充電状況、ゲーム、「対生物兵器モード」などの車両の全てのシステムの調整ができる。「対生物兵器モード」は特に面白い。
業界初の医療用HEPAフィルターを採用し、バイ菌、花粉、ウイルス、PM2.5などを除去する能力は通常の車の300倍以上だという。画面の中のアイコンをタッチすると、いきなり車内の気圧が上がり、外気をフィルターで清浄する。新型コロナウイルスに対してどの程度効果的なのかは未公開だけど、かなり効くと思われる。
テスラの自動運転モード「オートパイロット」も業界一と言える。もちろん、ほとんどの国では手放しの自動運転を許可していないので、テスラが「オートパイロット」と呼んでいても、この機能は「半自動運転」と解釈した方がいいだろう。しかし、「自動運転」レベル3以上の法律ができたら、テスラはすぐさまそのオートパイロットの導入ができるようになっている。
車両には、カメラが6つ、センサーが12個、そしてレーダーも付いているので、モデルXは常に周囲360度にある車両の動きを把握しているし、オートパイロットが作動している時にウィンカーをつければ、後方の安全を確認してから、クルマは自動的に車線変更してくれる。
モデルXの独自性や新しく加わった機能に触れれば触れるほど、このクルマの個性や珍しさが見えてくる。今までにこんなクルマはなかった。このモデルXは、近未来のEVの異次元の加速、走り、充電状況、意のままダウンロードできる新しいソフトウェアなど、全ての機能を大型タッチスクリーンで調整することができる。
これはまったく新しい時代の幕開けのような存在だ。このタイムマシンのプライスは1110万円から。決して手の届きやすい価格ではないが、「これだけの技術や可能性を積んでいるのだから、そんなに高くはない」と思うのは僕だけだろうか。
国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
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